第81話「ラスター・エデル・エーレンベルグ」
クリサンは横文字で、見た目は英語の筆記体に近い。
「ここです。私と一緒に入ってきてくださいね」
転入生と言えば先生だけまず先に入って、その後全員の前で紹介されるイメージだったが、こっちでは違うようだ。
原作だと転入生がくるイベントはなかったから、知らなかったんだよな。
「みなさん、今日は転入生を紹介します」
テレサのすぐあとに俺たちが入ったものだから、ざわめきは起こらず視線だけがこっちに集まる。
クラス内は俺たち抜きで二十人前後で、女子のほうがすこし多い。
中等部に関しては情報がすくないから、けっこう新鮮な気持ちだ。
同時に俺が予想できない展開が起こりえるので、警戒心は捨てないほうがいいだろう。
「自己紹介を」
テレサに言われてまず俺から名乗る。
フルネーム名乗るのは、前世の記憶を取り戻してからは初めてだ。
ちゃんと覚えきれているか不安だなと思いながら名乗る。
「トイフェ帝国から来たラスター・エミール・フリードリヒ・エデル・エーレンベルグ・トイフェです。よろしく」
ラスターは本名、エミールは赤子の時につけられる災いよけの名前。
フリードリヒは父親の名前、エデルは皇族の称号。
エーレンベルグが家名で、最後に来るのが国名だ。
トイフェ帝国のエーレンベルグ朝なんて外国では言われているだろうな。
父親の名前が入るのは皇族と貴族だけだ。
ちなみに貴族だと称号はゾンで、最後が国名じゃなくて領地名になる。
「エデル?」
「エーレンベルグ?」
ぎょっとした顔で、俺が口にした名を反すうする生徒たちが何人もいた。
そりゃ貴族階級ならトイフェ帝国の皇族のことくらい、ある程度教わっていても不思議じゃない。
「帝国からの留学生です。仲良くするように」
テレサが言い聞かせるように言った。
内心はどうあれ、まだ火種は表面化してないもんな……あくまでも今のところはだけど。
今後、関係が有効化する可能性が残されている以上、あまり敵意を向けられる心配はないだろう、たぶん。
「自己紹介の続きを」
とテレサはジーナに言う。
「ジーナ・ヴァイゼンです。ラスター様の従者を務めております。よろしくお願いします」
彼女は簡潔に言ってぺこりと頭を下げる。
従者身分だとそうなるんだよな。
皇族の俺は不特定多数に対して頭を下げることはできないのと対照的だ。
「二人の席は一番後ろに二つ用意したので、好きなほうに座ってください」
テレサの言葉に視線を送ってたしかめると、窓側とその隣に二つの空席がある。
「俺は窓側がいい」
と希望を伝えるとジーナはこくりとうなずいた。
まさか窓の向こうから狙撃されたりするこはないと、彼女も思ったのだろう。
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