第80話「学園に転入」

 学園の中等部に転入する日がやってきた。


 中等部は王都の一区画、高等部とは大通りをはさんだ斜め向かいという位置にある。


 かかる時間は自宅から徒歩で十五分ほどくらいで、夏や雨の日はちょっとめんどうかもしれない。


 新調された制服を着た俺はジーナをともなって門をくぐった。

 他国の支配階級ということもあり、転入試験なんてものは受けていない。


 書類だけでパスしたのはやはり強いと言うべきだろう。


 原作でも王族貴族なら、落第にならないような政治的配慮があると、苦々しく言及されたことがある。


 もっとも落第しないような配慮があるだけで、学年首席に関しては実力のみで評価されるはずだから、まだマシかもしれないが。


「トイフェ帝国のラスター皇子と従者ジーナですね」


 門をくぐってすこしして俺たちは、グレーのスーツを着た金髪の若い女性に呼び止められる。


 城でたまに見かけていた、仕事ができるが厳しい感じの女性官僚に雰囲気がそっくりだ。


「私はあなたたちのクラス、クリサンの担任のテレサです。よろしく」


「よろしく」


 とりあえずあいさつをする。


 クリサンは菊の英語を縮めたもので、たしか高貴的な意味あいがあるという予想があったな。


 学年のうち一番上のクラスで、身分の高い者と成績優秀者が集まる。

 要するにティアとサラと再会する展開が待っているだろうなと期待した。


 帝国皇子と知られたらティアはともかく、サラには警戒されるだろうな。


「あなたたちにはこれを渡しておきます。左胸につけてください」


 と言ってテレサが差し出したのは、赤い菊の花っぽいワッペンで、ローマ数字っぽくⅠが書かれている。

 

 もちろんジーナが俺の分もつけてくれた。


「わたしの後についてきてくださいね」


 一年のクリサンの教室は中央校舎の一階の、階段のすぐ近くだ。


 玄関から遠いのはすこし不便な気がするのは、前世の記憶が影響しているんだろうか。


「授業によっては男女別に別れることもあるのですが」


「当然でしょうね」


 と俺は応じる。

 何でも男女合同というわけにはいかないのは承知だ。


 そういう意味で従者や護衛は同性が望ましいとされている。


 ラスターはマジで人望がないっていうのは、従者と護衛がジーナ一人という事実が表していると言えるだろう。


 これは貴族階級なら誰でもピンとくることだ。


 要するに王国の貴族の子弟たちに、「帝国内で人望がない皇子だ」と紹介していくことになる。


 だから皇帝に留学を命令された時に驚いたんだよな。

 身内の恥をさらすような行為を、よしとするとはね。


 俺自身が恥をかく分には問題ないのか、獅子の子落とし的な狙いでもあるのか。

 現段階では保留だな。

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