第78話「一石二鳥と言えるプラン」
「あるじ様、どうかなさいましたか?」
ジーナはごく自然に俺をかばえる位置を確保し、それがサラの警戒心を刺激したらしい。
「先に譲った本を、この女性がわざわざ持ってきてくれたんだよ」
と彼女に伝えた。
「なるほど」
ティアの顔をちゃんと覚えていたジーナは納得したものの、自分を警戒しているサラに目を移す。
「この子と合流できたので、俺はこのへんで」
サラが警戒している状態で、ティアに話しかけるのは得策じゃないだろう。
別に機会をうかがうとしよう。
たぶん二人とも学園の中等部に通うんだろうし、今にこだわる必要もない。
「あ、はい」
ティアは少し残念そうだったが、サラの反対を押し切る意思はなさそうだ。
いずれ世界を救う主人公も、今はまだ遠慮がちな少女にすぎないんだろう。
俺がジーナに向き直ると彼女は本を二冊持っていた。
「何の本を選んだんだ?」
「はい。帝国にはない、王国の魔法です。取得可能レベルが20から25でしたので、念のため持ってまいりました」
「ああ、そうなのか」
王国と帝国で覚える魔法は一部だけ違っていて、有用性は今のところ高くない。
正確にはメイジやハイメイジなら、別に覚えなくてもいいのだ。
より強い魔法を覚えるための取得条件になっている奴は、普通に帝国の魔法で充分だし。
だが、せっかくジーナが気を利かせてくれたものをいらないと捨てるわけにもいかない。
「見てみるか。さすがジーナ、いい働きだ」
「ありがとうございます」
ジーナはうれしそうに答える。
ただ、俺が本を読んでいるのに彼女だけ何もしないというのもな。
「ローグの本を探してみたらどうだ? 何か参考になるものがあるかもしれないぞ」
彼女のことだから自分のことは後回しにして、俺のために本を探し続けていたはずだ。
「あ……」
やはり図星だったようで、小さく声をあげる。
一瞬で表情をとりつくろったので、見なかったことにしよう。
「失礼しました。そこまで考えが及ばず、申し訳ございません」
ジーナは謝罪するが笑って許す。
「お前は何も悪くない。常に俺のことを最優先で考えている、その反動が出ただけだけなんだ」
そのうえで彼女に提案してみる。
「ローグに関する本を改めて探してみたらどうだ? 俺はこの付近で読んでいるから」
この意見が通るなら、彼女が持ってきた本を速読ですませてもばれないだろう。
彼女を傷つけず、彼女に新しい可能性を提示することもできる。
一石二鳥と言えるプランだ。
我ながらとっさのアイデアにしては悪くないと自画自賛したくなる。
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