第77話「ティアとサラ」
「あのうごめんなさい」
と遠慮がちに声をかけられて視線を向けると、原作主人公が申し訳なさそうな顔をして譲った本を差し出す。
「ありがとうございました。あなたもお読みになるのですよね?」
「ええ」
返事をして受け取るだけだと、彼女と知り合うことはできない。
他の人間だったら会話を切り上げてもいいのだが、彼女とは可能なかぎり友好的な関係を築きたいので、まずは試してみよう。
「あなたもダンジョンにもぐりたいのですか?」
「はい。強くなりたくて」
と原作主人公はひかえめながら、意志の強さを感じさせる声色で答える。
「俺もなんですよ」
わかるという顔でうなずく。
理解者、共感者というポジションになれればという計算でだ。
「やっぱりそうなんですね」
彼女は少しだけうれしそうになる。
この時代、彼女の味方や理解者はクライスター伯爵の子どもくらいだろう。
知り合いが増えるのは喜ばしいはずだった。
「と言っても俺は魔法使いなんで、前衛がいないときついんですけど」
見た目からして魔法使いという格好をしているので、彼女は驚かなかった。
「もしかしてあなたと一緒にいた女の子が前衛なのですか?」
興味ありそうに彼女は聞いてくる。
「ええ。メイドでありローグでもある、とても頼りになる子ですよ」
俺はジーナへの信頼を口にした。
これは本心を漏らすだけでいい。
「いいなぁ」
唇が動いただけで声にはならなかったが、彼女が羨ましがっていることは何となくわかった。
「あなたは一人でもぐる予定なんですか?」
おそらく俺の目に映るところにいないだけで、誰もついていないということはありえないはずだが、外国人の俺がしっているのはおかしい。
何も知らないという顔で聞いてみた。
「いえ、おそらく神官の友人ともぐることになるかなと」
彼女は微笑なのか苦笑なのか判断しづらい表情で答える。
彼女の親友はたしかに神官でもあるが、魔法も使える特殊職「セージ」で、賢者といったほうが通りはいい。
勇者と賢者が幼馴染で一番の親友なのである。
そのせいか序盤のうちは二人だけである程度ごり押しすることも可能だった。
「あら、ティア?」
そこに女性の声が聞こえて来て、彼女は右を向く。
「サラ」
サラと呼ばれたのは水色の髪をショートヘアにした、一瞬美少年かと見違う美少女だった。
青い瞳もふくめてどことなく硬質な宝石を思わせる。
「こちらの人は?」
サラが俺を見る目は警戒が浮かんでいた。
まあティアと呼ばれた子に近づく人間は、誰であろうと警戒するのがこの子の役目だろう。
「わたしが読みたい本を譲ってくれた人。この人もダンジョンにもぐりたいんですって」
「へえ、そうなの。たしかに強そうね」
ティアの説明に納得したものの、警戒は解いていない。
そこにジーナが戻ってくる。
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