第76話「情報を得たことにしておきたい」
目当てのものを譲ってしまったので、少しの間はヒマになる──とはいかない。
せっかく足を運んだんだから今のうちに「情報を得た」ことにしておきたい内容で、この図書館で閲覧できる情報は見ておこう。
「他にめぼしい情報がないか、探してみてくれ。俺はこのあたりにいる」
一応ジーナにそれっぽい指示を出してみる。
「ですが」
彼女は俺のそばを離れることに難色を示す。
たしかに彼女が離れると俺の危険は大きく増すが、ここでは危険はほぼない。
「クライスター伯爵を敵に回すリスクを背負ってまで、俺を狙うもの好きはいないだろうさ」
低い声で言って笑って見せる。
そう、クライスター図書館で事件を起こすということは、伯爵家の顔に泥をぬる行為になってしまう。
そこまでして俺に危害を加えたいやつは、現時点ではいないだろう。
俺じゃなくて皇太子のマハト兄だったりしたら油断しないほうがいいと思うが。
自分で言っててちょっと情けないが、俺はまだそこまで価値がある存在じゃない。
「失礼ですが、クライスター伯爵家を貶めたい者が、御身を狙うという可能性はございませんか?」
ジーナは自分の意見をあまり言うタイプじゃないが、別に馬鹿じゃなかった。
俺の考えの穴とでも言うべき点にちゃんと気づいている。
「ないとは言えないが、俺じゃなくてもいいからな」
たしかに可能性はゼロじゃない。
だが、クライスター伯爵家に恥をかかせたいなら、他にうってつけの存在がいる──さっき出会った原作主人公だ。
彼女は傍流ながら王家の血を引いているし、王位継承権も持っているはずだ。
ぶっちゃけ王国の政治的ごたごたに関わっている連中にしてみれば、俺なんかよりもよっぽど狙いたい相手だろう。
だいいちラスターって現時点じゃ帝国外だと無名だろうからな。
狙う価値がないどころか、そもそも存在すら知られてないんだから、心配しすぎるのも滑稽な話だと思う。
「かしこまりました」
ジーナは納得したのか、しぶしぶながら従ってくれた。
別に好んで彼女をそばから離したかったわけじゃない。
そのほうが色々と都合がよかっただけだ。
原作主人公をこっそり観察するとか、あるいはこの辺の棚に置かれた本を速読でチェックしたことにするとか。
パラパラと読んでいく。
この辺には重要な情報はあまり多くなく、必要に応じて「図書館で見たことがある」とでも言えば充分だ。
そもそも本当に重要な情報が書かれたものは、誰でも閲覧できる図書館に置いていないだろうけど。
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