第75話「思いがけない出会い」
俺が読みたいのは王都から行ける日帰りダンジョンである。
本のタイトルはたしか「王都の住民用ダンジョンマップ」だったか。
ピンポイントでタイトルを言い当てるのはよくないので、それっぽいことを言ってみよう。
「王都の人間が通えるダンジョン、みたいなタイトルがあるかどうかまずは探してみよう」
「かしこまりました」
小声で話しかけると小声でジーナも返答する。
一番右側の棚の前に立って上から順番にざっと流し読みの要領で探していると、上から三段目のところにちょうど見つけた。
「お」
と声をあげて手を伸ばしたら左手から伸びてきた手と触れ合う。
「うん?」
ジーナは俺の右隣に立っているのだから彼女ではない。
思わず声を出して左を見てみると、同じような表情をした金髪の少女と目がばっちり合う。
その容貌に俺は思わず息を飲む。
ジーナに匹敵する美少女だったからじゃなくて、原作の女性主人公にそっくりだったからだ。
シンプルな水色のシャツに革の上着、黒色のパンツスタイルはたしかに主人公の初期服装っぽい。
そう、原作では主人公の性別を選ぶことができたのである。
まさかの女性主人公パターンか……と思ってたら彼女に謝られた。
「気づかなくてごめんなさい」
「いや、こちらこそ」
俺が生きのびる上で一番大切なのは、原作主人公を敵に回さないことだ。
なのでここは譲歩しよう。
相手が女性なら、紳士的な態度をとったという解釈が自動的に発生するので、ある意味男性相手よりやりやすい。
「お探しなのはこちらですか? どうぞ」
愛想笑いを浮かべつつ本を差し出すと、彼女はきょとんとする。
「ですが、あなたが先に手をとったのでは?」
「いえ、素敵な淑女を押しのけるなんてできませんよ」
遠慮している少女に愛想笑いを向けて、再度勧める。
「そういうことでしたら……なるべく早く読んでお渡ししますね」
本を手に取ってうれしそうな微笑をこぼした後、ぺこりと頭を下げて近くの椅子に移動した。
ふー、と安堵の息をこぼす。
原作主人公とクライスター伯爵家の関係性を考えれば、たしかにいてもおかしくはないのか。
原作シナリオがはじまる前に主人公がどこで何をやっていたのか、簡単な説明しかなかったら想定が甘かった。
笑顔がひきつってなかったことを祈ろう。
「あるじ様よかったのですか?」
ジーナが小さな声で聞いてくる。
彼女に本当のことを説明できないので、もっともらしい言い訳を用意する必要があった。
「まあ王国で暮らしていく分には、王国民とも仲良くしておかないとな」
「御意」
ジーナは一応納得してくれたようで何よりである。
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