第37話「予定は変わらず」
目が覚めたら朝だった。
昨日のことは、ジーナにマッサージされたことまでしか覚えていない。
服装、そして石鹸の匂いが残っているからたぶん風呂には入ったんだと思うが。
ジーナが何とかしてくれたのだろう。
「おはようございます、あるじ様」
そのジーナが部屋に入ってきてあいさつをし、朝食が乗ったワゴンを運んでくる。
俺のダメなところを知り尽くしているからか、顔所はいつもどおり。
「いい匂いだな」
「本日は豆とスパイスのスープ、ハーブをまぶした鴨肉のロースト、パンにございます」
ジーナは銀色のカバー(クローシュっていうんだっけ?)を取りながら、料理の説明をした。
「スパイスやハーブが多いのは珍しいな」
と率直に口にする。
嫌いじゃないが好きでもないことから、ジーナは料理にスパイスやハーブを使うことは少なかった。
「申し訳ございません」
ジーナはいきなり頭を下げて謝罪をする。
「あるじ様がとてもお疲れだと気づくのが遅れてしまいました」
彼女の顔は雨に打たられている捨てられた子犬のようだった。
俺の疲労が記憶が飛ぶレベルでたまっていると気づけなかったことを、心底後悔して恥じ入っているらしい。
「気にするな。俺も自覚していなかったからな」
何で気づかなかったんだろうと今になったら思うのだが、本当に昨日の夜までは自分でも把握していなかったのだ。
人間、疲れていると眠れないし体のサインに気づけないと聞いた覚えあるが、それが昨日の俺だったのか。
「で、ですが」
ジーナは納得してくれなかった。
「お互い今後気をつけよう。大事なのは同じ過ちをくり返さないことだと思う」
面倒になってきたので途中で彼女の言葉をさえぎり、力強く言い切る。
「は、はい」
読み通り、俺が言い切れば彼女はそれ以上言ってこなかった。
「今日は予定通りロックバードの巣に行くぞ」
「えっ」
予定を告げるとジーナは一瞬ぎょっとする。
流れ的に今日は休むことになると思っていたのだろうか。
「やっぱり羽のペンダントの入手を優先する」
と言う。
羽のペンダントはロックバードの羽と金属、鉱石を錬成して作るアイテムだ。
これを使うと一度行ったことがあるダンジョンと城を往復できる。
初めて行く場所以外は馬を使わなくてよくなる重要アイテムだ。
「これを手に入れたら移動時間を休憩・回復に回すことができる。長い目で見れば大事なことだ」
「かしこまりました」
ジーナは俺の顔をじっと見ていたが、やがて賛成する。
心配ない程度に回復したと判断したからだろうか。
「安心しろ。俺だって倒れたくないし、死にたくはない。疲労回復ポーションを飲むことも考えよう」
と言うと彼女はほっと息を吐き、明らかに安心していた。
死にたくないから強くなろうとしてるのに、過労で死ぬとか笑えないからな。
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