第38話「ロックバードの巣」

 今日の出発はいつもより少し遅れた。

 馬に乗ったところでジーナが報告してくる。


「あるじ様のお言葉があったので疲労回復ポーション、購入いたしました。お疲れになったところでお申しつけください」


 今まで俺がほしいと言わなかったから、彼女は買わなかったんだな。

 自分の一存で行動できないと思っているのだろう。


「そうか。よくやった」


 と言うとジーナは安心した笑顔になる。


「俺のためになると思ったことは、俺の許可なく行動することを許可しよう」


 とも告げた。


 我ながら変な言い回しに聞こえるんだが、彼女相手にはどうしてもこういう表現になる。


「ご信頼を賜り恐悦のきわみ。きっとご期待に応えます」


 ジーナは感極まった声を出し、体を少し震わせた。

 

「ああ」


 俺がうなずくと彼女は気を取り直して馬を走らせる。


 ロックバードの巣の正式名称は「ピレウスの森」だったな。


 あちらこちらにロックバードの巣があり、素材収集がしやすいということらしい。


 もっとも推奨レベルは15で、それ以下だと雑食のロックバードのエサにされる危険もあるようだ。


 食うか食われるかというルールは、こちらの世界に色濃く反映されていると考えていいだろう。


 森だと火の魔法を使うのはとても難しい。

 雷の魔法は気をつけていれば大丈夫か。


 敵とみなした存在しか燃えないとか、標的しか燃えないっていう便利な魔法があればいいんだが、原作はそこまで魔法使いに優しくない。


「ロックバードならジーナ一人でも倒せるよな?」


「今の私でしたら問題ないと思います」


 俺の問いにジーナは当然のごとく答える。

 ロックバードはレベル15あればタイマンできる強さらしい。


 魔法使いの俺は無理だが、アサシンになったジーナなら大丈夫だろう。

 

「俺はできるだけ手を出さないでおきたい。ウインドショット以外の魔法は使いにくいからな」


 と彼女に説明する。

 ロックバードの巣を攻略するなら水か土の魔法を選んだだろう。


 だが、ロックバードの巣を攻略する必要性は今のところ低い。

 

「目標はあくまでもロックバードの羽だけだ。ドロップしたらここは離脱する」


 ロックバード一羽の経験値はスライムよりも上だが、スライムは例のやり方でまとめて倒せるので、総合的に見ればスライムのが美味しい標的なのだ。


 強いモンスターと戦う趣味があるわけじゃない俺としては、目的の素材さえ獲得できたら他のダンジョンに行くつもりである。


「かしこまりました。ドロップ率は低くないはずなので、何羽か仕留めれば大丈夫でしょう」


 ジーナはうなずいて短刀をそっと抜いた。


 

 

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