第21話「魔法の検証」

 晩ご飯は牛のローストに温野菜のスープと白くて柔らかいパンだった。


 牛肉と白いパンは金持ちしか食べられないという設定だったなと思い出しながら、味を堪能する。


 そして少し残してジーナへの分とした。


 宮廷が雇っている役人とは違い、私的の使用人には食べ残しやあまった分を下げ渡すのが報酬の一部であるらしい。

 

 俺のためにいい食材を使っても、ジーナ自身が口にできるのは固い黒パンに、焦げた肉片、野菜くずというのが相場のようだ。


「天よりの恵みに感謝いたします」


 ジーナはそう言って食事をはじめる。

 ここで言う天とは、天の神と主人である俺をかけたものだった。


 身分差が強烈な世界だもんな。

 ジーナの食べ方は前世の俺より綺麗かもしれないとちょっと思う。


 じっと見ていると食べにくいだろうから立ち上がって本を読む。

 レベル5になったら「ウィンドショット」の魔法を覚えたい。


 サンダーより射程は短いが威力は高いのだ。


 雷より威力が高い風って何だ? とは正直思うが、ゲームが準拠の世界だからで片づけようと思う。


 何らかのルールがあったとしてもおそらく俺の頭じゃ理解できないので。


「あるじ様」


 食事の片づけをすませたジーナが俺に声をかける。


「ああ。じゃあ検証をはじめよう」


「ではまた私の部屋に」

 

 ジーナの申し出に首を振った。


「ここでいい。使うのはスリップだけだから」


 魔力の回復量を確認するならスリップでいいし、スリップなら部屋を移動する必要はない。


 無駄に広いからな、この部屋。


 長いテーブルと椅子、来客用の大きな丸テーブルにソファーが置かれているが、他に何も置かれておらず赤いじゅうたんが敷かれたスペースがある。


 ベッドがある寝室はドア続きの別の部屋で、ホテルのコネクティングルームみたいな感じ、とでも言うべきだろうか。


「御意」


 ジーナはうなずいてアセットから銅色の置時計を取り出す。

 次に五センチほどの大きさの赤い魔力水晶を出して、俺に手渡した。


 この魔力水晶は触れている人間の現存魔力量を教えてくれるもので、感覚に頼らず検証する時に必要になる。


「じゃあはじめるか」


 スリップを一度使い、少しの間を置いて二度目を発動させた。

 すると左手に持っている魔力水晶の上部から明るさが消える。


 四割の魔力を消費したと表示されたわけだ。


「後は回復するまで待つだけだ」


 魔力の回復速度を見るだけだから、けっこうお手軽である。


 必要なアイテムを簡単に用意できる皇子という身分のおかげだから、その点はちゃんと感謝しておこう。


 一時間……こっちの単位で1ハウが経った時、水晶が少し明るくなる。

 どうやら一時間に1魔力回復するようだ。

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