第16話「魔法の練習をする」

 ジーナの部屋は小さな窓しかない六畳間程度の広さだった。


 上等とはとても見えない寝台一つ、タンスが一つあるだけの殺風景さで女の子の部屋とは思えない。


 立場の弱い皇子の個人使用人だとこうなるってわけだ。


「じゃあさっそく練習しよう。ジーナ、目標になってくれるか?」


「はい」


 まずはジーナの同意を取り付ける。

 

「天地にさまよう雷の精霊よ、その意思を示せ。サンダー」


 この世界の魔法には呪文があるが、原作だと基本使わなくてもいい。


 ただ、せっかく魔法を使える立場になったんだから唱えてみたいという想いが上回る。


 実戦ならともかく今は練習だからな。

 そして呪文を唱えて彼女に向かって放つ。


「ん」


 避けるかと思っていた彼女は避けず、胸のあたりに雷光が命中して軽くうめいたので慌てる。


「おいジーナ」


 思わず身を乗り出した俺に向かって彼女は微笑む。


「平気です。少しくらいなら」


 そりゃレベル差がはっきりとしているから、二、三発当てても問題ないだろうけど。


「サンダーは速度があるから攻撃を当てやすいな。それとも避けようと思えば避けられるか?」


 とジーナに聞いてみる。


「雷と風はなかなか難しいですね。火、水、土は避けやすいのですが」


 彼女の答えになるほどとうなずいた。

 やっぱり覚えるなら雷と風を中心にしていくべきだろう。


 風にも雷にも強いタイプの敵は一応いるけど、当分遭遇しないはずだ。

 それまでに強くなって何か対策を考えておく。


 この点はふわっとした計画でいこう。

 一回呪文を唱えてとりあえず満足できたので、呪文なしで魔法を撃ってみる。


「サンダー」


 今度は腹部のところに命中した。


「あるじ様の狙い、正確ですね」


 ジーナは感心してくれたが、自分ではよくわからないなぁ。

 最初のうちは関係のない場所に飛んでいったりするものなんだろうか。


「そういうものかな」


 一応仮説を立てるなら、前世の記憶が戻った俺は何の訓練も受けていないこの世界の人間よりは、有利に働くんじゃないか?


 他に差ができる理由に心当たりなんてないもんな。


 まあラスターになってつらいと思っていたが、いいこともあるんだとポジティブに受け止めよう。


「この分なら明日から実戦に使えそうだな」


 いい手ごたえを感じていた。


「はい。ご立派です。私も頑張ります」


 ジーナが意気込む。


「ああ。頼りにしているぞ」


 彼女がいなければ俺はショイサの洞窟すら探索できない。

 それ考えたらもうちょっと装備とかを検討したいんだけどなぁ。


 予算はあるはずだが、目立たないことを考えれば難しい。

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