第14話「魔法を覚える2」
城に戻ってきて図書館に向かったところで、ばったり兄と出くわしてしまう。
才能のある優秀な戦士だが、それを鼻にかけた傲慢な次兄アローガだ。
「くさいと思ったら帝室の面汚しと野良犬ではないか。俺の高貴な鼻が曲がってしまうわ」
とわざとらしく鼻をつまんでみせる。
武人らしく髪を短く切りそろえているのに、豪華なイメージを与える金色の髪と自信と傲慢を隠せない青い瞳を持ったイケメンだ。
原作の女性ファンからはさげすむ態度と、落ちぶれた時のみじめさのギャップがいいという、俺にはよくわからない評価を受けていたキャラである。
「ご無沙汰しております、兄上」
とあいさつをしておこう。
どれだけ馬鹿にされても、こっちが返事をしなければそれだけで立場が悪くなるだけなんだから、後ろ盾のない末っ子皇子というのは厄介なものだ。
「ふん、久しぶりだな。貴様は父上に呼ばれんからな」
返ってきたのは冷笑と嘲弄。
帝国では帝族同士がそろって会食するというのは日常じゃない。
週に一回に開かれる晩餐の時、皇帝から招待された者だけが参加できる。
できが悪く後ろ盾もない俺はもう長いこと呼ばれていない。
従者たちが最低限の礼儀を守るだけで、身の回りの世話をすべてジーナがしている理由がこれだ。
晩餐に一回でも呼ばれたら誰か使用人がつくかもしれないが、今の俺はそうなるメリットがない。
帝国は現時点だと王国や皇国、連合国に優位に立つ大国だろう。
だが、原作のシナリオが進めば帝国は負けて破滅する。
どんなルートをたどろうとも帝国だけは必ず滅亡してしまうのだ。
今のうちから脱出する準備にはげむのが利口なネズミだと思う。
「申し訳ありません」
謝ってやり過ごそうとすると、アローガに変な顔をされた。
「変なものでも食ったか? ずいぶんと殊勝ではないか」
記憶を取り戻す前のラスターだったら、何も言わずに黙ってにらみつけるくらいはしていたもんな。
何も言い返せないことがわからないほど馬鹿じゃないが、感情を少しも隠せないくらいには愚かって思われていたんだろう。
まったくもってその通りなんで、挽回するのが大変だなこりゃ。
「まあいい、貴様ごときに使う時間は惜しい」
アローガは面倒くさそうに手をふり、男従者三名を従えて立ち去る。
だったら最初から話しかけてくるなよと思っても言えないのが、今のラスターの立ち位置だった。
残されたところで俺はジーナに声をかける。
「かばってやれなくてごめんな」
今の俺じゃ野良犬扱いされる彼女をどうすることもできない。
「いえ、あるじ様の安全が何よりでございます」
ジーナはくもりなき忠義を返してくれる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます