第6話「養殖」
慎重に歩く俺たちの前に姿を見せたのはゴブリンだった。
ゴブリンとは闇の誘惑に負けて妖精が鬼に変貌した種族である。
ヒューマンの田畑や家畜を襲うし、場合によっては人種そのものすら食料にすることから大いに嫌われていた。
身長は130センチくらいで手先も器用だから武器くらいなら自力で作れるし、ネズミに負けない繁殖力を誇るので個は弱くても種としてはかなり厄介である。
というのが原作での設定だった。
俺たちの目の前には弓矢を持ったゴブリンレンジャーが一匹いる。
俺は奴らが首から下げている角笛を見ながら言った。
「仲間に知らせる前に倒したい」
ゴブリンレンジャーは笛の音で仲間を呼ぶという特徴があり、大量のゴブリンを相手にしなければならなくなる。
ここは人の手が入っている初心者用ダンジョンだが油断はできない。
他の探索者が死なないレベルでもうっかり死にかねないくらい弱いのが、ラスターという男だ。
俺の言葉を聞いたジーナは地面を蹴って距離を詰め、短刀でゴブリンの首を斬ってしまう。
まるで瞬間移動のような早業だった。
ジーナはゴブリンが落とした弓矢を拾って格納して戻ってくる。
「ゴブリンの弓矢はどうしましょうか?」
「売って資金の足しにしよう」
「御意」
俺のアイデアをジーナは受け入れた。
ゴブリンがアイテムを落とすのは幸先がいいが、おそらくジーナのおかげだ。
彼女の職業ローグにはドロップする確率をアップさせるスキルがある。
彼女とチームを組めば代わりにモンスターを倒してくれ、ドロップ確率アップさせてくれ、何もしなくても経験値を分けてもらえるというわけだ。
この行為を養殖と呼んでるプレイヤー多かったなぁ。
敵として出た原作ラスターがレベル1じゃなかったのはボスだからという制作側の事情はもちろんだが、ゲームシステムでも一応は説明できる。
「順調だな」
俺は首から下げている測定ブローチをちらりと見た。
レベルアップしたら振動で知らせてくれる機能付きだが、もちろん一度の戦闘では何も起こらない。
「あるじ様、次はどうしますか? ゴブリンレンジャーが一匹でいたということは、おそらく待っていれば新手がやって来ると思いますが」
ジーナの発言はゴブリンの生態を考えてのことだろう。
物見で出ていたゴブリンレンジャーが戻らなければ、仲間が様子を見に来る。
「ゴブリンはそんなに頭がよくないから、いきなり全員でとはならないだろうしな」
「御意。安全を期すなら深入りはせず、この付近で待ち伏せするのが一番かと思います」
「それでいこう」
俺はジーナの作戦を採用した。
楽な上に理にかなっているのだから却下する理由がない。
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