第5話「最初のダンジョン2」

 食後三十分ほど経ってから俺たちは準備を整え、ショイサの洞窟へ出発する。


 皇子と言ってもまだ十二歳の俺に公務はなく、どこに行こうとも誰にも気にされることはない。


 ダメ皇子のラスターは一人で馬に乗れないので、ジーナの背中にしがみつくという形をとっている。


 拾ってきた従者でも乗馬くらいこなせるのに、自分はできないというのが俺が馬鹿にされている理由のひとつでもあった。


「あるじ様、着きました」


 ジーナはそう言って馬を止めてひらりと降り、綺麗に着地を決める。

 それから俺に手を差し出したので、彼女に手伝ってもらいながら馬から降りた。


 周囲の視線は一瞬で霧散してしまう。

 俺たちは仕立てのいい服を着ているし、装備品も上等だ。


 みんなに嫌われて疎外されていると言っても、与えられている年間予算は他の皇子と公平なので、いい装備品を揃えられたのだ。


 平民たちにしてみればどこかの金持ちの道楽息子で、できるなら関わり合いにならないほうがいい相手に見えただろう。

 

「【格納】」


 俺たちが降りたところでジーナが盗難対策で馬を回収する。


 生物すら回収し、そのまま生活させることができる【アセット】という袋タイプの高級マジックアイテムだ。


 主人公が中盤から終盤にかけてようやく入手のめどが立つというレアな高級品を初期から持てるあたり、くさっても帝族の一員だと思える。


 そんなアイテムだから俺より強いジーナが持つのも当然だった。


「何だ今の?」


「馬が消えた?」


 周囲のざわめきを無視して俺たちは洞窟へと突入する。

 

「今日の目標は俺のレベルが2になることだな」


 洞窟に入ったところで言う。


 原作のプレイヤーは一気に3くらいまではあげられたけど、主人公とラスターのスペック差を考えると無理はできない。

 

「御意」


 ジーナも安心したようにうなずく。


 洞窟と言ってもここは人の手で管理されている人工ダンジョンなので、岩の壁にたいまつがかけられていて明るい。


「ここにはどんなモンスターが出るんだ?」


「ゴブリンとコボルトですね。階層も全部で四階と浅めのダンジョンです」


 俺の問いにジーナがよどみなく答えたのはさすがだった。


 ゴブリンとコボルトしかいなくて四階層しかないなら、やはり初心者用の練習ダンジョンという位置づけだからだろう。


 もっとも俺は一対一はともかく二対一になると不安である。


 序盤とは言え「ボスのくせに取り巻きのジーナのほうが強い、ジーナが実質ボス」と言われたほどの男なんだから。


「慎重に行こうか」


「御意」


 もちろんジーナも知っているので俺を守ることを最優先してくれるだろう。

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