第3話「忠臣ジーナ」
どうしてこうなった?
彼女に不審に思われるような言動はしていなかったはずだ。
混乱しながらも毅然とした、ラスターらしい言動を心がけよう。
ラスターはジーナ相手にはどこまでも強い態度をとるはずで、命乞いをしたりは
しない。
「何のまねだ、ジーナ? お前を誰が拾ったのか忘れたのか?」
傲慢に恫喝しようとして失敗する。
自分より遥かに強いジーナの殺気に当てられ、声は震えたあげく上ずってしまった。
「あるじ様には大恩があるが、貴様は違うだろう。あるじ様らしからぬふるまい、この私の目はごまかせないぞ」
取り付く島もない態度ってこういうことを言うのかな、と現実逃避をしたくなる反応が返ってくる。
ジーナだからこそ記憶を取り戻した俺に対して違和感を持ったということだろうか。
ラスターに興味がない他の人間だったら気づかれなかったんだろうけど……上手くいかないな。
頑張らないといきなり殺されてしまうので、彼女を何とか納得させなきゃいけない。
必死にラスターの記憶を掘り起こしながら重くなった舌を動かす。
「お前を拾ったのは四年前か。路地裏でいきなり飛びかかってきたんだったな」
「……あるじ様から聞いたのか?」
ジーナは不審たっぷりに睨んでくる。
「俺の首を掴んだ直後、腹の虫が鳴って気絶したんだっけな」
「そ、それは」
思い出したくない過去だったのか、ジーナはみるみるうちに真っ赤になった。
「寝言でお母さんと言った時には何事かと思ったぞ」
「ね、寝言まで!? まさか本物のあるじ様?」
ジーナは恥ずかしそうに悶えながら殺気を霧散させる。
勘は鋭いけどまだ十三歳の女の子なのが幸いしたかもしれない。
「し、失礼しました。何分言動と雰囲気が変わっていらっしゃったので」
ジーナは俺から離れると悲壮な顔になる。
「かくなる上は死んでお詫びを!」
「待て!」
どうせそう言うだろうと思ったので、強い声で制止した。
今度の声は上ずらなかった。
「これからお前の力が必要だ。詫びと言うなら今まで以上、誠心誠意仕えてくれ」
ジーナは必死かもしれないが、俺だって必死だ。
たった一人味方だと確信できる相手を失うわけにはいかない。
今ここで彼女が死ぬと、俺がバッドエンドを迎える確率は100%だと自信を持って断言できるんだから。
「で、ですが」
ジーナは迷いを見せるので、畳みかける。
「俺の許可なく死ぬ権利がお前にあるのか?」
彼女にはこんな言い方のほうが効くだろうと思ったらずばりだった。
短刀をしまって両手と額をじゅうたんにこすりつける。
「申し訳ございません。ご寛恕感謝いたします」
ひとまず唯一の忠臣にして最大の味方を失わずにすみそうでほっとした。
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