第17話 ハリボテ阻害

 彼が望んだ世界、それは単純な平和

極端な発展や向上ではなく適度な幸福

争いが生まれる前の謂わゆる普通。


「凄いこの世界..!

頭で思い浮かべた事が形として現れる何もしなくても、思えばいいだけだ」

エンジニアたちがここを使わなかったのは、漠然としたイメージを持つだけだったからだ。技術をもって、発展したと思わせるしかなかった。


「もう少し高いビルを建てよう。

そっちの方が元の街に近付く気がする

金に価値のある時代もあったっけな」

死に物狂いで金を稼いでる者もいた、今ならどういった顔を向けられるのか

「日常よ、元に戻れ。」

願いながらビルを造ると爆発音が響く

見ると先端が焼け焦げ崩壊している。


「…おかしい。

あんなイメージはしてない筈だ」


「イメージじゃねぇよ。

おいおい忘れちまったのか、寂しいじゃねぇかよ爆ぜちまったのか?」

過去の昇華した記憶が舞い戻り爆撃を与えた。現実に起きた衝撃である。

「バンビー..」

「久し振りだなポピラ、随分生意気な見た目になったもんだ。」

介入できるのは己の意識のみ、古い記憶が邪魔をしているのか。だとすれば実際に爆撃は起こらない、起きても被害を生じさせる訳は無い。


「何でここに?」

「呼び出されたんだ、変な奴にな。

俺だけじゃねぇぜ。他も一緒だ」

次々と過去の記憶で見た顔が軒を連ねる。一人一人を、鮮明に覚えてる。


「キザミ!」

「久しいなポピラ!

..で、何でここに呼ばれたんだ?」

浮浪の旅人に行く宛を付けるとは愚挙もいい所だ。


「ボルサス!」

「お前...ポピラか⁉︎

オレがいない間に何があったんだ。」

自覚が無いまま自らをショートさせたボルサスにとって、ポピラの変化は理解し難いものであった。


「……なんか、犬の人」

「エリンコだ!

エリンコ・シュバルツ、名乗って無かったねそういえば!」

不遇の犬の飼い主まで付いてきた。お呼びで無いのに、野良犬のような奴だ


「ここが支配の先の世界?

思ってたより普通じゃないの。」

約束は守った、それだけは保証したい

「キャンティス。

元々オレは何でもない平和を欲してた理想を現実にしたのがこの世界だ。」


「へぇ..アンタ欲浅いんだねぇ。」

己の欲などどうでもいい、気になるのは誰の差し金か。過去の遺物を寄越したという事は、現代に不満があるという事。この世界をよく思わない思念。

「久々の再開のところ悪いが

お前には消えて貰うぞ支配者。」


「やはりお前か..名前長過ぎて忘れたエンジニアポリス!」

長髪をなびかせ、新規の世界へ足を踏み入れる。

「お前と会話をするつもりは無い、潰れるがいい。過去の屑よ」


「エクスプロード!」「ぐうっ!」

腹に不意の爆撃、加減は一切無い

確実なスクラップを狙ってきている。

「バンビー、お前..!」

右腕を直ぐに剣に変形、反撃を試みる

「おっとさせねぇぜ?

手数ならこっちが上なの知ってるな」

ニードルにより鋭利に伸びた指による連続刺突、全身に食込み穴を開ける。

「ぐうぅぅっ...!」

「壊れるまで続けるぜ?」


「何の、つもりだっ..!」

「背中..ガラ空きだぜ?」

開きのように指に夢中でお留守の背後にボルサスのショートが炸裂、身体を完全に停止させられる。

「ぐっ...。」

「加減はしてある、このままスクラップにはならねぇよ。この力じゃな」

衝動は止まず動き続ける。

ポピラを大きく覆い、黒い影が覗く。

見えるのは、長い尾と二つの挟。


「スコルピオ..!」

「寝返った訳じゃあねぇぜ?

在るべきところに居るだけだ。」


「ポピラ、アンタは動き過ぎなんだ。

..少し休みなよ、ね?」

尾が腹を破り身体を突き上げた。

その時初めて、自らの造った空の色を知った。白い余白が随分と残っているこれでは青いとは言えない、反省する

「悪い、少し眠るわ。」

尾を引き抜かれ床に転がると、視界は白くいつかの砂漠のように見える。


「一人で眠っていろ、支配者とやら。

思想の世界に閉じ籠り夢想するがいい既にテクノロジーと技術がお前の思いを凌駕している。」

突き放す言葉を投げた後、過去と共に世界を出ていった。ギアはもう一度、日常の一技術に成り下がる。


「……誰もいなくなった、か。」

記憶が残る、身体の殆どが人に戻る。

完全に白くなった世界に手を延ばしてみた。何も感じない、音も色も。


「……」

争うのをやめた。潔く出来る事が無いのならと、静かに口に出してみた。


「おやすみなさい。」

ポピラは随分と久し振りに、ゆっくりと目蓋を閉じる。

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