第16話 過去に喰われる人

 「私のギアをどうする気?」

動かなくなる直前に彼女は聞いた。

「世界の一部にする、というよりなる

形は残るが今の形じゃない」

それだけを聞くと簡単にギアを差し出した。人でいる事に余り執着は無さそうにみえた。


「でも多分、アナタが思ってるような世界にはならないと思うわ。たとえアナタが支配者になったとしてもね」


「オレが支配者?」

「ええ、アナタ支配者みたいよ。

..いつか見てみたいわね、支配された後の世界の景色を。空の色が今よりも明るいといいけど、目一杯。」


「いつか見せてあげるよ、明るい空」

「そう、楽しみにしてるわ。」

未来の事など誰にもわからない、明るいか暗いか、広いか狭いか..。


「成る程な、やはり残っていたか。

地下を潜っていたが気付かなかった」

 跡形も無く爆破した組織の建物の瓦礫の下に、地下へと続く傷一つ付いていない扉があった。扉を開き中へと続く階段を下りると、小さな部屋へと辿り着く。部屋の壁には大きな歯車の形を模した窪みがあり、不思議と冷ややかな空気が流れていた。

「ここにギアを収束させる訳か」

既に胸の辺りで、エネルギーが強く反応しているのがわかる。


「みんな…やっとたどり着いたよ。」


集めたメモリギアが、流れ重なり一つのギアを窪みへ生成していく。


「青い歯車...これを廻せば動くのか」

少し触れ、軽く右側に傾けると自然に同じ向きで回転する。

「ギアが青く光っている、何か起動させるのか。仕様を調べておくべきだったな、どこかに資料はないか?」

青く光るギアに呼応するように、自らの胸部が突然に輝く。

「これは..オレのギアか?

自信のは取られずに済んだ訳か。」

胸の光と青い光が重なり周り合い、徐々に光が薄れてやがて消えてゆく頃ギアの回転は停止した。

「..何が起きた?」

静かに指先をギアに触れると、光が溢れ出る。光は一遍にポピラの身体を包むと、何も無い真白な空間に誘う。

「胸にギアはまだある、世界は白い」

何も無い場所に一枚の歯車。


「…成る程な、これが創造者の証か」

自由に絵を描けるキャンパスが、ポピラの手の元に入った。


「ギアの正体、世界への鍵だ。」


キャンパスに絵が描かれ始めると、現実は消えていく。機械の蟲も堅苦しい組織の造った鉄の枠も。

「行ったか、幻想の現在いまへ」

扱いは知っている。

元々世界の長だった男だ、当然の道理

右回転を加えた世界に左回転の歯車を加えたらどうなるか。

進んだ分は戻らないが、そこに過去を生み出す事になる。現在を創る歯車の成分は過去の歯車の束に他ならない。


「先に向こうにいてくれ、いずれイメージが完全に描ききれば世界の常識は奪われる。その前に私も行く。」


「けっ、ホントかよ。」


「信用ならんな、誰だかも知らんが」


「野望がある内は楽しそうだなオイ」


声色だけでは誰もわからない、しかし全員過去の記憶を担う者たち。


「約束は守ってくれるみたいね。

安心した、見れないと思ってたから」

支配の向こうがわはどんな景色なのか

「壊れろ、支配者気取り。

私の世界で暴れて貰っては困る」

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