第15話 用心される支配欲

 金属の街に警察の類は存在しない。

しかし住人全員が一つの組織といっていい程同じ動きをしている事から、ズれたはぐれものは直ぐに分かる。


「…ズズッ..。」

金属の床を液体が伝う、銀色の液体は徐々に形を成し、形成した二本足で世界に立った。

「..ふぅ、派手にやってくれる。

さて、始めるとするか」

長の言う事は一瞬で広まり行動の規範となる。常識とはつまり、異端を省く安定の在り方である。


「動くな」


「…ゴウテツ。」

バイクに乗った集団が道を塞ぐ、電信された情報を聞きつけ集まったのだ。

「何のつもりだ?」

「創設者サマのお達しだ。

組織を荒らし、逃亡した奴を止めろ」


「それが何故オレだと思う?」


「情報に特徴があった。

〝ギアを組み込まず直接所持する者〟

そんなのお前しかいないだろ!」

 機能として組み込まれるギアの働きにより、メジャーな移動手段であるバイクはこうした緊急時には、武器へと変化する。持ち手を大きく確保したチャージ式のリボルバー銃、更にギミックを利用すれば接近戦の刀に変わる。

「昨日の敵は今日の敵。

お前と会ったのは今日の筈だか?」


「友も牙を剥くって事だ

悪いことは言わねぇ、潰れてくれ。」

住人の一斉射撃。

有無を言わさず的を狙って狙撃する。


「死んだかー?」

威力によって生じる煙は後の結果を隠したがる。こればかりはからりと晴れるまで待つしかない。

「…容易だな、お前たちは」

「なんだよまだ生きてんのかよ。」


「数を撃てば当たると思ったか?

残念だがオレは兵力には自信がある」

晴れた煙の向こうには、機械の蟲がうじゃうじゃと湧いてポピラの周囲を覆っていた。

「機械蟲..こんなものまだ生息していやがったのか。」


「友など仮の気休めなのだな、現に今お前は蟲の餌となりかけている」

人は変わるというが、変わらざるを得ない環境が定期的に提示されるだけだ誰しもが変化などしたくは無い。


「か、かかれっ!」

「友情..絆、よく言ったものだ

表面だけの脆い器は直ぐに砕けろ。」

願いではなく予測の投影

形を強く張るものほど軽く押せば倒れるものだ。「仲間」という言葉は、それを安定させ維持させる為に言う言葉決して心情を揺さぶる力は無い。


「スコルピオ」

「..はいよ、お呼びですかご主人?」

サソリ型の機械蟲が返事をして隣に着く。ご主人は比喩であり忠誠心は思っているより高くは無い。

「ギアはどれだけ拾えた?」

「全員分かき集めたが、当然だろ。

人の動きくらい読めるっての、ってもこんなギア使いもんにならねぇぞ」

 バイクに機能として備わったギアに能力は無い為、直接の使用を好むポピラには使いどきが無い。

「だからお前たちを呼んだんだ。

古い型からアップデートする為にな、そうすれば一々こういった賊軍を相手しなくて済むようになる。」

烏合の衆に手間を取られていては無駄極まりない。物事は迅速に、的確に進めるべきだと判断した。


「はいよ、そういう事なら頂くぜ?」


それから街や世界には機械蟲が蔓延るようになった。バイクは武器や移動手段から、蟲を避ける為のスライダーへと役目を変えた。


「さて、世界を一纏めにするにはギアを結集し...廻転させる必要がある。」

ある程度の思想があれば一人でにギアは動き廻転する。

人のエゴや願いは、理屈すらも超越し世界に影響をもたらすという訳だ。


「ギアの中心核を抑えなければな。」

世界を一度仮にも造ったのであれば、軸となる空間が存在する筈だ。

そしてその場所は確実に、世界を取り仕切る集団の手の届く範囲にある。

「する事は山積みだな..」

創るより側を壊す事、手間がかかるのはいつも準備の方だ。目的地に着けば大概は簡素に終わる、道中で何をするかが重要となる。


「キャンティスよ、見ているか?

支配の先の姿を拝む日は近いぞ。」


過去にした、ひそかな約束。

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