第12話 無心 無視 蟲

 世界に生きている人間の殆どは男だ

女性は機械化を忌み嫌い拒む者が多かった。無理もないだろう、己の身体を機械に変えるのだ。骨格もスタイルも大事な箇所は人工に変わる。


「バカだよね!

美貌を失いたくないから死を選ぶなんてさ、言うほど変わらないってのアンタの見てくれなんて。」


「……」


「っていくら言ったって周りの友達は聞く耳すら持たなかった。背けたかったんだよ〝死人に口無し〟ってのを」

土を掘りムカデが顔を出す。

「私は女のヨロコビを捨てたらほら、代わりにこんな力を得たよ。どちらに価値があるのかなんて、今更わかりゃしないけどねっ!」


ムカデがうねる、容赦なく人を襲う。

しかし人もまた容赦はしない


「ふんっ!」「…嘘。」

細い刀の一振りで弾けて消えた。

慣れではなく本来の純正な強さ、形は幅を取れど所詮は虫けらという事だ。

「間違いだよ、根本からね。

そもそも人に価値は無い、だから正しい筈は無い。..そんな事は記憶を無くした僕だって知っている事さ。」

隠していた訳じゃない、ただ目紛しい戦の最中錯覚していた。強さや硬さに混ざり込み気付くのが遅れた。


新たな世界を創る、それはつまり現在の世界の軸を破壊する必要がある。


「何者だい、あんた⁉︎」

「..沢山の機械蟲と戦っていて思ったんだ。僕はいくつ壊すんだろうって、残っていて欲しいものは何故形を無くして汚れていくんだろうって。」

思いは破れ、理不尽なモノや人が平然と笑っている。慣れた人々は無痛のままに受け流している。


「わかったんです、僕に思いを託す意味が。新しい世界の為に必要なピースだったんですよ。」


「ピース..?」


「そうです、ピース。

人を苦しめているのが醜いエゴならばそれを鎮めて浄化させるのも人のエゴ悪いエゴを良いエゴで打ち消す!」

目には目を、歯には歯を。

通常ならばこの方式はお互いの同士討ちで終わる。目は潰れて歯は砕ける。しかし世界のそれは0になる、新しい一本の線を描く白い紙に変わる。


「..アンタ狂ってんの?」


「正気ですよ?

少し夢見がちですが大丈夫です。ギアを下さい、あなたの求める価値もそれで構築出来ますから。」

口角は最大まで上がっている、固定されたように笑顔が顔に張り付き目は見開いたまま。機械の身体に冷や汗をかいてしまうほど焦燥を煽る。


「それにあなたは間違っていません。

身体を機械化させた事は正しい」


「…私もそう思うけど、今のアナタにいわれると簡単に肯きたくないわ。それに女の意味合いは男ほど単純じゃない。馬鹿だとは思うけど、譲れないものがある事はわかる。」


「さっき〝くだらない〟と言ってたよ

その意味合いは男も同じ、人である事は〝枠組みを保つ〟だけの事だよ。人にしか出来ない事はある、だけど同時に〝人だから出来ない〟事を作ってしまっているんだ。」

偽善ぶるのはナンセンス、ポピラはただそう言いたいだけだ。機械化を自ら選択した時点でわかっていた筈の事、それを否定し人を褒める事を優しいとは言わない。それこそ都合良く形取られたエゴというもの。


「もうダメね、話してもラチが開かない。会話できなくて現代に生き残ったのに、結局ここでもそうなのね。」


「言葉はいらない」

「..それもそうね、簡単だわ」

砂漠の世界は戦の世界、立っていたものが歯車を掴む。思想も未来も、強さが決める。思考はその後についてくる


「いくわよ?」

「悪いけど、もう止まらない。」

悩みはオーバーヒートに焼き消えた、キャンティアのギアを取れば山程いる蟲の残党はたちまち消え、未来へ歩数はまた増える。


「アナタ、まるで支配者ね。」

「..僕は支配者じゃないよ?

この世界の、新たなる創設者だ」

歴史は0から始まり、終わる。

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