第10話 ムシトリかご無し道具アリ
多対一は初めてだ、それも至極一方的な形での戦力の隔った状態での雑な戦闘。何も起きず、世界が平和だったなら「無理ゲー」と称されるだろう。
「加減はしねぇ、三体同時にいくぜ」
「……」
「どうした?
話す余裕も無いのか、哀れな。」
「…いや、用意周到に隙間なく攻めようとする感じというか。それがなんかすごく人間っぽいなと思ってさ?」
「あんだよ、挑発かよ。」
蟲の習性を詳しく知る訳では無いが、念入りに警戒しつつ啖呵を切るなどという高尚な事は行わないだろう。
「少し安心した、規格外の怪物だと思ってたけどさ。思ったより機械だね」
「試してみろやぁっ!」
威勢のままに尻尾を振り乱す、先端には湯気の立つ液体が溢れ流れている。
「毒か!」
尾を躱し、刺さった地面の砂が溶ける
これが意味するものは、確実に一度でも触れてはならないという事だ。
「おらおらぁっ!」
「尾の動きが読めないけど..絶対にこっちを狙ってくるから、反射的に構えるしかないよね。」
斧をまるで盾として迫り来る尾に打ち付ける。先端は毒で満たされている為身体に辿り着く前に尾の腹を叩き跳ね返す。防戦一方、長期戦を試みるのも可能だがそれはサシの勝負の話。
「リーチは武器になる。
接近戦など馬鹿の振る舞い、恥者だ」
二枚の鎌がギロチンのように空間を掠める。余所見をしようものなら意識が追いつく間も無い間隔で首を削ぎ落とされるだろう。
「アトラクションじゃないんだから!
イヤだよ、遊ぶ感覚で壊れるのは」
「面倒くせぇな、タランチュラ!
お前の糸で縛ってやれ」
「何故がお前が仕切る?」
「..捕ラエる。」
「あぁ?
いいんだよ、言う事聞くんだからな」
一匹静かにじっとしていた蜘蛛型の蟲が遠い距離から口で吐いた粘菌を、無数の脚でこね始める。
「何アレ?」
「クモはタンパク質に唾液を混ぜて糸をつくる。硬さもなにも自在にな」
「下品に見えるか?
残念だがそれは先入観だ、尻の先から毒液を垂らすより余程品が良い。」
「てめぇ誰の事言ってんだよ?」
「さぁな、自覚がないならわからん」
犬猿の仲と呼べる程口喧嘩が目立つが相手が蟲の場合は何というべきか。
「
地を這い怒りを滲ませるには丁度いい
「..捕ラエた。」
吐き出すように飛ばされた網目状の糸がポピラを捕らえ拘束する。硬く作られた糸は抵抗し動く事でよりキツく身体を締める。
「くぅっ..これ結構ヤバいかもね」
「シメーだな、ブッ壊してやんよ。」
「体は刻む。
ギアは取り除いて頂くとしよう」
危機一髪と四面楚歌が同時に訪れると人は動揺すらをしなくなる。
焦りを超越し、不思議と穏やかに気分のポピラは敢えて冷静に状況を考えた
どうすればいいのか、何か出来る事は
無いのかと。
「…キツく身体を締める、巻きつく糸の接地面が凄まじく多いって事か。」
考える人を思考は裏切らない。
現状を突破せんとする思惑が、身体を動かし生かそうと必死に働くのだ。
「導け右腕」
振動音が糸を斬り裂く。身動きが取れないならば、刃を動かせばいい。
「おいおい何の音だこりゃあ?」
「電ノコか、まるで機械だな。」
「捕ラエてナイ....。」
下手に身体を傷めないように、刃を縦に入れ下から上に、斬り上げるように振りあげる。
「色々考えるねぇ〜人間のくせに。
そうまでして無様に生きようっての?
イヤな執着心だぜまったくよぉ!」
「この振動を、斧に加えたらどうなるか。それもやってみていいかな?」
右腕変換、電ノコを電オノに。
狙うはサソリの土手っ腹、当然サソリは何かを構えて防ごうとするだろう。
「ツクヅクだなてめぇ!」
そこで妥当なものは何であろうか。
..先程から自慢げに振るっている尻尾に他ならない。
「はっ、バカがよ!
尾なんざいくら斬ったって生え揃うってのに、ご苦労なこったぜ!」
「ゴミも使いようだよ。」
「あん?」
斬り落とした尾を砂に落ちる前に拾い
放り投げる。身から削がれても尚先端には毒が満たされ溢れている。
がむしゃらではなく意図して投げた。投げた先には鎌を垂らした大きな蟲が
尾の先端は今にも蟲を刺激しそうだ。
「…おい、見境くらい付けろ。」
漸く気付けば尾は眼前に、これを躱すには身体をうごかさねば。
「ちいっ..!」
しかし前には進めない、横も不安定。
ならば後ろへ下がるのみ。
「バカ!
てめぇ後ろ下がったら..!」
「なんだと言うのだ。
第一お前が己の部品を無様に..」
「言ってる場合かよ、ぶつかるぞ!」
直線上には蜘蛛の糸。
確かクモは自在の硬さを生み出せると聞いた。モノが勢いよく飛んで来るとき、果たしてどんな硬さにするのか。
「タランチュラ!
よけろ、余計な事は断じてするな!」
「..捕ラエる?」
時すでに遅し。
タンパク質は足元で練られ、直ぐにネットのように展開された。
「バカか貴様っ!」
咄嗟の判断は間違えやすい。糸の硬さは明確でも、粘度までは難しかった。
クモとカマキリは一体となり、糸の粘着とバウンドを同時に体感した。
「邪魔だ小賢しい!」
直ぐに鎌で斬り裂そうと試みたが忘れている。毒を持つ尾は止まらずに尚も動き続けている。
「ぐあぁっ..!」
毒はカマキリの腹に付着し糸のバウンドによりサソリの元へ還っていく。
「おいおいウソだろこっち来んな!」
己の毒を受けるのは初めてだろう。
酷な事だ、バウンドによって跳ね返る機械の物理的衝突、毒による刺激、それらを同時に受ける事になるのだ。
「スコルピオ、自らを呪え..!」
「ふざけんなスティングこらぁっ!」
恨みとも思える捨て台詞は毒による症状か、それ程毒素というものは気を狂わせる痛みがある。
サソリはあたふたと狼狽えたが、豪速球の如くスピードで迫り来る機械の塊に抗う術は見つからず、結局身体全体で二つの痛みを伴う事となった。
「がっは..重ぇ...。」
一つは二つに、二つは三つに。
三位一体となった機械の毒玉は、尚も止まらずポピラの元へ。
これ以上痛みを被るのは御免だと、振動を止め、三度目の答えを導き出す。
「大きな剣で叩き斬りたいけど、いまいち硬さがわからない。」
「ダイヤモンドくらいでいい?」
右腕を大刀に変化。
硬度の基準はざっと、ダイヤモンド級
「そんなに」
「硬い訳が..!」
「ナイだろ...。」
もう再生する事は無い、元に戻す程の繊維が確実に残らないであろうから。
「ごめんね、網はあっても
君たちを入れるカゴがないや」
砂の上にはまた、金属片が降り注ぐ。
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