第7話 土の檻 セーブロード

 暗い..不覚にも落ち着いてしまった

室内という環境の安寧を、暫く身体が忘れていたからだろう。

「家ってこんなだったのかな。」


「そんな訳あるか、こんな薄汚い。

もっと暖かい場所に決まってるだろ」

怒り気味に答える男。

同じく檻に収監された街の住人らしい


「いつから此処に?」

「..もう随分と前からだ、まんまと騙された。見ろ、他の連中は電源を落として沈んじまった」

男の向こう側に、気の抜けた機械の身体が無数に横たわる。覇気が無く、まるで死んでいるようだ。

「スクラップ?」

「似たようなもんだ、ギアを奪われて動く気力を失った。精神異常というやつに近いものかもな」

身体を変えても心は残る。長時間暗い檻に閉じ込めて、希望の力を取られれば思考は停止し感情も薄れる。

モノだけでなく人も作り上げたという事だ、中々の駄作ではあるが。


「なんでこんな事を。

人を閉じ込めるようなことをして、封じ込めたところで理想郷なんて..」


「非力だからだ。

アイツの力はモノづくり、便利ではあるが戦闘向きでは決して無ぇ。だから牙を剥きそうな危険な奴は直ぐに抜歯する、そういう臆病な奴なんだ」

 街に住人として招き入れ家を提供する。暫く経つと地下に誘い檻に入れ、消耗した頃に一度「家に戻す」と囁く

しかしそれは檻の延長で、手枷と足枷を付けた不自由な軟禁であり自由などまるで無い。表面上の安らぎを与える

「此処から抜け出す方法は?」

「あったらやってる。」

「やっぱり無いか、仕方ないね」

内側から檻を強く叩く、鈍い音が響くが構う事は無く拳を何度も打ちつける


「お、おい何やってんだ⁉︎」

「見た通りです、殴っているんですよ方法がないなら壊すしかないでしょ」

穏やかな振る舞いに横暴な武器

人は見かけでは分からない、それがほぼ鋼鉄の機械であってもだ。


「だったらせめて能力を使えよ、下手な遣り方じゃ身を傷付けるぞ!」


「出来たらやってますよ。」


「..お前まさか、覚醒してないのか?」


「何をやってもダメなんです。

どれだけ数を倒しても、何に触れてもメモリギアの力が湧かなくて。」

争うだけの為の力は要らないが、生きる為の術としては必須なギアの力。

持っているのが普通とされるその確実な力を要せずここまで生き永らえてきた事に、男は偉く衝撃を受けていた。

「過去の記憶は?」

「消えています、完全に。」

「機械化してから強い感情を抱いた事はあるか。何かを護りたいとか、誰かを壊してやりたいとか。」

 思う事は幾つかあった、しかしそれは人の思いに寄り添っただけ。直接自分が感じた事ではない。野望があるにはあるが人やモノといったものではなく見ているのは世界、何かを強く思うには規模が大き過ぎる。

「過去を棄てた今に問題があるな..」

背後にまわり、肩に右手を置く。


「今から俺のギアの能力を使ってお前の機械としての稼働を止める。

限定条件は俺の〝名前を知る事〟だ」

メモリギア「ショート」の能力

文字通り触れた相手をショートさせ停止させる。時間や範囲を設定すれば、部分的なショート、停止間隔の調節が細やかに実行することが出来る。

「いいか?

俺の名はボルサスだ、お前は暫く人に戻る。制限時間は3分だ、それ以上は完全に機能を停めてしまう」

檻の中に転がる眠った機械たちも、ボルサスの力によって停止を施させた。

覚醒するか、牢屋で死ぬか

選択肢は一つだけ、選ぶまでも無い。


「やってください。

それしか方法が無いのなら」

「…潰れるなよ?」

強い電磁波に似た衝撃が走る。機械の活動が緩み、身体は徐々に、人の波長へとシフトしていく。

「心を保て!

人である数少ない基幹で考えろ!」

記憶を消したポピラにとって、遡り思い出すのは幾つかの出来事。

歴戦の英雄たちが残した思いと戦いの様、その瞬間毎の己の振る舞い。


(僕はいつも護られてたな。)


庇われ見守られ、枷となり一つの不安材料として常に戦場に立っていた。


(僕に力が無かったからか?)


力不足で人の足を掬った

だとすれば疑問が生じるのも事実。


(なら何故そんな男に思いを託した?

 力無い夢語り如きに。)


過去の人間は言っていた。

「これ程まで大きな事を考えている奴は初めてだ」と。恐らくそれは、他者の期待を帯び始めた証であったのだ。


(そうか、僕の願いは人を巻き込む。

 その時点で、自分だけの展望じゃな

 い。人の思いを乗せる願いだ。)


根本で皆が望んでいるのは平和

世界の安寧はそれを保証する証明だ。


「2分が過ぎた..おい、大丈夫か⁉︎」


(僕の願いは、人々の平和なんだ!)


白々しくも強く刻まれた真の展望は、頭に響き身体に循環する。機械の動きは停まっているがギアは思いの具現化停まる事なく回り続ける。


「…身体が光ってる、ギアの激しい稼働が内側から火花を放っているのか」

最早機械を停める必要は無い。

力を解除しショートを止める、檻の中では初めてだ。気力を取り戻し再度稼働し始めた人間を見るのは。


「……。」「目覚めたか?」


「..ああ、直ぐに出してあげるよ。」

右腕を左の掌で軽く叩く。

すると右手首から上が刀身へと変化、鋭い鋒が檻の隙間を捉え深く斬り裂き軽々と傷を開ける。

「凄いな、それがお前の力。

腕が剣に変わるのか、目立つ能力だ」

「..違う、そうじゃないよ。」

軽く腕を振ると形状が再び変わりメガホンのような円錐型となる。

「自在変化の右腕か..!

便利なもんを手に入れたものだな」


「僕の能力は〝アンサー〟導き出した答えを右腕に変換し具現化する。」

檻を壊して脱出するにはという頭の中の問いかけに、壊して破壊するという答えを出して右腕を剣に。


「その腕の結論は?」

「地下で叫んでも声は届かない。なら声よりも大きな音を出す必要がある」


円錐の筒から地上に向けて爆音が鳴り響く。ビリビリと地下との境が砕ける程の音は反響し、砂をグラグラと揺らしている。

「うるっせぇっ!

生身の人なら鼓膜が弾け飛んでる!」

執拗に地下に響き渡っているが、本来は地上に向けた音。アンサーは正しく回答すれば確実に導きを与える。

本来の目的は決して外れてはいない。


「だらぁっ!」「なんだ⁉︎」

地上の床を破壊して、男が地下に落ちてきた。どうやら飛ぶ鳥を落とす事に成功したようだ。

「また会ったね、これで何度目?」

歪んだ顔は尚も健在に睨みつけている

「外だけでなく地下でもかぁ⁉︎

余計な事ばっかしてくれやがって!」

初めから狙っていたのは街ではなく男のいる場所、ピンポイントで音を出す為に先ずは範囲的に攻めた。


「なんだぁ、その腕?」

「君の苦手な戦闘向きだよ。」

右腕を剣に戻し魅せながら説明する。

「お前をどうにかする為の力だ!

卑怯が正義を覚醒させちまったのさ」


「てめぇまで檻から出やがったか。

良かったなぁ犠牲者が増えなくてよ、一体何人自分で壊した?」

様子を見にくる度にスクラップは増えていった。ショートの力を呪ったときも幾度かあった。しかし今回は役立てた。滞っていた覚醒を促し昇華させ、戦える力をポピラに与えた。

「次に壊れるのはお前だカルギス!」


「..フザケてんなよ?」

荒れる卑怯に破壊宣言を発令する。

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