六月二十日
第58話 昨日の敵は今日も敵
◆
「……ふむふむ。君たちが昨日遭遇した出来事については概ね把握した。して……どうして今日はこんなに早くから僕の
「ボス」は静かにみそ汁を
この問いについては私も同様の疑問を抱いていた。私とリコは夜が明けてからすぐ細波に引っ張られて来ただけなので、この質問に答えられるのは必然的に細波しかいないことになる。
手狭な机の上には茶碗やら湯飲みやらに入れられたみそ汁が全部で五つあり、五人で押し合いへし合いなんとか座る場所を確保しているような状況である。私と細波とリコと「ボス」、そしてさも当たり前のように花江先輩もその場にいた。みそ汁のよそってあるお椀に口をつけるでもなく、手の中でくるくる回している。お茶を飲むならばそれも良いだろうが、みそ汁を啜るのに作法も何もないだろうに……。
私たちはともかくなぜ花江先輩がここにいるのだろうか、まさか男女一つ屋根の下で暮らすなどという
「ボス」は百合——つまり女の子同士のアレコレを好むのであり、また花江先輩はそのことを歯がゆく感じているようだった。であれば不埒なことはないだろう。
「敵ってことはないでしょう」細波が湯飲みに入れられたみそ汁を啜りながら言った。「昨日の敵は今日の友ってね。この前のことは水に流して、もっと建設的な話し合いといこうじゃないですか」
「昨日の敵は今日の友かね……違うな、昨日の敵は今日も敵さ。悪いが、のこのこと『多摩タヌキ』を連れてきてくれたこの状況は僕にとって非常に喜ばしいものだと思っているよ。今日は大学に行くのを止めて、欠席回数を三回に増やしてやろうかなあ」
長く伸ばしたあご髭を擦りつつ敵意を向けながらも、大学生よろしく欠席回数を気にするその態度には少しの滑稽さがあった。しかし当然、それにはにかむ余裕は無い。確かにこのままでは飛んで火にいる夏の虫、もとい、夏のタヌキに他ならない。
思わず姿勢を整えてしまいたくなるような緊張の中、細波がまた口を開けた。
「どっこい、これが俺の言った通りなんですよ、ボス。何と言っても俺たちの間にはこれっぽちも争う理由なんて無いんだから」
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