第25話 ヨーグルトとラク

 トルコの庶民料理を所望するとアイテンさんは、これでもかとばかり典型的なメニューをテーブルに並べて呉れた。



 まずはチョバン・サラタス。いつでもどこでも出てくる定番で、「羊飼いのサラダ」の意。トマト、キュウリ、玉ネギをざくっと切って、シンプルに味付けした素朴なサラダだ。

 次いで茄子の挽肉詰め、カルヌヤルク。さらに、茄子のたっぷり入ったグラタン風、ムサカ。茄子のうえのチーズが香る。

 串に刺し焼いた肉料理、シシ・ケバブ。その挽肉バージョンのアダナ・ケバブ。口に入れると香辛料がつんと広がる。アダナはトルコ南部の街の名だ。


 そしてやはり欠かせないのは、ヨーグルト。今日の一品はヨーグルトに胡瓜の輪切りをたっぷり泛べた冷製スープ風。

 遊牧民から出たトルコ人が乳製品を愛するのは当然だが、そのヨーグルト愛は群を抜く。

 日本ではトルコのお隣り、ブルガリアの名が冠せられがちなヨーグルトだが、実はその源流はトルコ民族に求める方が正当だろう。ブルガリアの名の元であるブルガール人はトルコ系民族であり、この地域は14世紀末より19世紀後半に至る長きにわたってオスマン帝国の直轄領だった。

 トルコのスーパーで売られているのはバケツサイズの容器に入ったヨーグルト。恐らく四、五人家族で二日もあればそれを平らげるのだろう。なにしろ、何にでもヨーグルトが使われるのだ。彼らにとってヨーグルトは、ドレッシングであり飲料でありスープでもあり――しかしたら、主食だ。



 今日は後に仕事は控えていないのでアルコール解禁。アイテンさんと旦那さんも今日はタクシーで帰るとのこと、三人でトルコワインで乾杯する。アンカラ周辺はワイン生産に適しているのか、ワイナリーが多い。

 ワインの横に並ぶのは、ラクの瓶。

 ラクは、トルコの蒸留酒だ。葡萄を原料にした無色透明の酒で、外見も味も、或いはアルコール度数の高さも、どこかウォッカを思わせる。茴香ウイキョウの香りが特徴だ。

 もう一つ、水で割るとその大きな特徴が現れる。無色透明のラクが、水を加えると途端に白く濁るのだ。だから、と云う訳でもないだろうが、ストレートではなく水で割って飲むのが一般的だ。


 ワインにラクにビールと、イスラム教徒の国でアルコール飲料生産花盛りになるのは何故、との問いはもう不要だろう。何度か述べた通り、少なくない人数のトルコ人は酒を嗜む。

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