第22話 古民家と土産物

 サフランボルの歴史的街区では、ところどころで古い民家が観光客に開放されている。なかに入ると、人形で当時の生活が再現されていた。

 絨毯を敷いた床の上に直に座って、楽器を奏でながら談笑する男たち。

 別の部屋ではかまどで料理する女性たち。出来上がった御馳走の皿は、からくり扉のようになったスペースを間に介して、広間の男性たちの許へと届けられる。食事を提供する際、家の女性の姿が男性客たちの目に触れることはなかった。


 イスラムの教えの中で女性が何かと窮屈な思いをしていただろうことは想像に難くないが、一方でトルコの女性たちはしたたかに、男の目の届かぬ女の園で誰憚ることなく華やかな生活を満喫してもいたらしい。

 男が如何に女を縛ろうとしたところで、女は表は従順な振りをしながら裏ではいましめを解いて生を謳歌する。男は気づかず、騙されたまま満足して一生を過ごしたのだろう。

 この世はうまく出来ている。



 古民家を出ると、少し先には木の工藝品を売る小店。並べられていたのはトルコの独楽こま、トパチ。紐と独楽がつながっていて、音を鳴らしながら、空中で長く回り続ける。試してみると、私でもそれなりに回せた。幼い甥へのお土産に丁度好い。カラフルな独楽が幾つも並ぶ中から、紫と青の二種を選って購入する。


 その隣り、少し上等そうな店では、オヤが飾られていた。オヤとは、レースの縁飾り。店の端に座ったお婆さんが目の前で一つ一つ手縫いしている。店番をするのはその娘さんだろうか、笑顔で客と商談する姿は、何処か貫禄を漂わせている。

 オヤでできた彩り鮮やかな花を幾つもあしらったネックレス。手に取ると、店番の女性が声をかける。誰にと云う当てもなく、少し値切った後に三本購入して、店を出た。


 朝の陽がやさしく射す通りで立ちばなしするお内儀かみさんたち。

 その足下では幼子おさなごふたりが木の玩具で遊ぶ。

 古民家の展示から未だ脱け出せていないのでは、と錯覚させる人びとの営み。

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