第12話 ケバブと猫とハマム

 買い物を済ました後は下町へと戻って行った。

 きと違って下り道なので足が軽い。目についた店でケバブサンドを注文した。


 串に盛り付けた肉を回転させながら炙り焼くのが回転ドネルケバブ。

 その焼けたところから順に削ぎ落し、野菜と一緒にパンやピタ(ナンに似たパン)に挟んで食べるのがケバブサンド。

 二つ回転しているドネルケバブの、何方どっちいかと尋ねられた。片方は羊肉、もう一つは鶏肉だそうだ。答えは両方、ミックスで。店主は笑って、パンからはみ出すほど沢山盛り付けてくれた。


 ケバブサンドの味を支えるのは、ケバブも勿論だが、それを挟むパン。表面パリパリで中はやわらかなのがいい。この店は当たり。ケバブの肉汁が滲み込んで最後まで旨い。



 足を筆で撫でられるような感触に驚いて下を見ると、子猫が二匹。ケバブの匂いに惹かれて来たのか、私を見上げてにゃあと鳴く。肉片を千切って、一片宛ひとつずつ鼻先へ差し出すとぺろりと飲み込んだ。

 これで懐くかと思えばに非ず。獲るものさえ得れば子猫二匹は悠々と尻尾を立てて、背後うしろを振り返りもせず去って行った。気高く自由な子猫たち。人に愛されるのは彼ら自身の美しさ故の功であって、その結果与えられた獲物に対して人に感謝せねばならぬわれは一厘もない。




 腹が満たされれば、愈々いよいよ次は浴場ハマム(トルコ式浴場)だ。

 往きに目をつけていた浴場へ向かう。

 外から見た建物はかなり古びているが、中に入ると天井のガラスから届く陽光で存外明るい。

 此処は地元民に人気のハマムらしく、賑わっている。バスタオルに身を包み、大理石の台に座って垢擦り・マッサージの順番待ち。ドーム状になった天井に、男たちの談笑する声が反響する。


 やがて私の順番が廻って来ると、髭面で屈強な体格の青年が全身に湯を掛け洗い出した。最初はくすぐったい感じがしたが、直ぐにくすぐったい処ではなくなった。力加減を知らないのか、豪快に擦り上げて呉れる。周りの客を見ても、そこまで力一杯擦られているようには見えない。物問う目で青年を見ると、彼は実に人懐こい笑顔を返した。


 ああ、これも好意か――と心づいた。外国人に飛び切り最上のサービスを、と云う訳だ。まったくトルコ人のサービス精神には恐れ入る。有難く受けたまわるしかないではないか。

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