第11話 アンカラ城址とトルコ絨毯

 モスクを出た後はアンカラ城址へ。

 ナッツ類を商う市場バザール、旧い隊商宿のようなホテル、その先の土産物屋を抜けて見晴らしのいい城址しろあとへと登った。先客に学生らしい集団がいる。賑やかな若い声を上げる彼らは、女性の九割はスカーフをしていないが、陽気に騒ぎながらもなんとなく男女に分かれている。

 安全柵もない防壁の上を、度胸試しに歩く青年。下を見下ろせば、墜ちて死ぬには十分な高さ。確実に命を落とす為には何処を目がけて落ちればいいか、などとつい考えてしまうのは職業病か。

 頭を振って城の頂上を見上げると、トルコの赤い国旗が風にはためいていた。



 城址から下りて、再び民藝品の店一帯へ向かう。

 何れもこじんまりした店構えだが、そのなかでは比較的大きい絨毯屋に入ってみた。店のなかでは男が二人、暇そうに歓談していた。


 丸めて床にかに積み上げられた絨毯から幾つか指して、ひろげてもらう。材質は羊毛ウールシルクのような光沢はないが、温かく素朴な手触りと色合いがいい。値段を尋ねると、イスタンブルの半値以下。と云っても、それは「最初の言い値の半値以下」と云う意味で、その通り買うことは有り得ないので、イスタンブルでの最終的な買い値と比べれば丁度同じぐらいか。


 トルコの手織り絨毯は知名度ではペルシャ絨毯におくれを取るものの、品質と美しさに於いては決して劣るものでない。二本の経糸を絡める所謂いわゆるトルコ結びは頑丈で、優に百年以上の使用に耐える。


 幾つかに心惹かれたが、残念ながら今回のスーツケースは絨毯を入れられるサイズではない。代わりにキリムを見せてもらった。キリムもトルコ名産の織物だが平織りで、折り畳むとコンパクトになる。デザインはより素朴で愛らしい。



 運ばれてきた琥珀色のチャイを飲みながら商談。イスタンブルやカッパドキア辺りなら英語か、下手すれば日本語で交渉できるのだが、アンカラでは当然トルコ語。

 彼らは生まれついての商売人なのか、何でも交渉せずにはいられない。商談の最中喉を潤すチャイは必須だ。


 結局、言い値の七割程度でキリムを一枚購入。あまり値が下がらなかったのは店主の最初の言い値が正直だったのか、それとも私が交渉下手なのか。何れにせよイスタンブル価格よりは随分やすいから、よしとしよう。

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