第6話 アンカラの夕べ
アンカラ駅に着くと、エージェントが迎えに来ていた。
「久里さん?」
と声をかけてくれたのは三十歳前後と思しき女性。ギリシア系の血が濃く出た、碧い瞳の美しいご婦人だ。今回の仕事は女性運が良いらしい。
彼女(アイテンさんと
レストランは、ごく庶民的なケバブ中心の料理店。彼女はマントゥ、私はイスケンデル・ケバブを頼む。
さっと周囲の会話に聞き耳を立てても、英語は聞こえてこない。これならば内緒の打ち合わせができそうだ。
「ワインでも飲む?」
とアイテンさんは訊ねたが、私は断った。仕事前は飲まない主義だ。
代わりにアイランを頼むと、
料理を待ちながら、仕事の打ち合わせ。
マントゥが先に出てきた。小さな水餃子をトマトスープに浸した料理。
日本人にも深く馴染んだ餃子は中華文化圏のみに止まることなく、トルコをはじめ中東、ロシア、イタリアにまでバージョンを変えて広がりを見せる。この料理を発明したのがどの民族なのかは知らないが、こうして世界各地に伝播させた功は遊牧騎馬民族(トルコ人もその一つだった)の活動に
そのトルコバージョンであるマントゥは、上にヨーグルトがかかるのが特徴だ。湯気とともに香ってくるスパイスが鼻をくすぐる。明日の夜はマントゥにしよう。
勿論、すぐ後に来たイスケンデル・ケバブも美味しかった。
生姜焼き程度のサイズにカットし重ねたドネルケバブの上に、たっぷり溶かしたバターと、やはりヨーグルトをかけて食す。かける分量は、お好み次第だ。
食事を了えると早速仕事だと促され、慌ただしくチャイを飲み干した。
やれやれ。余韻に浸る暇もない。
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