第十話 念願の初……グフフ
そして一年が無事終わり、新しい年を迎えた。心機一転、今年は何としてでもクロエとの関係を進展させてみせると心に誓った。
いよいよ決戦の日を迎え、万全の心構えで僕はクロエとの待ち合わせ場所である本宮正面出入口でいそいそと彼女を待っていた。もう部署が全然違うので以前のように職場で毎日顔を合わせることがなくなったのが無性に寂しい。
クロエは急いで来たのだろう、頬が上気している。相変わらず何の色気もない質素な紺のドレスだが、それでいい。部署も違う今、別に他の男に見せるために着飾らなくてもいいのだ。こんな禁欲的な装いを脱がせることを考えるとより燃える。
宿に着くまではお互い口を利かなかった。クロエの緊張が伝わってきて、僕も何も言えなかったのだ。もちろん連れ込み宿に泊まるのは初めてなのだろう、クロエはあからさまではないが興味津々の様子である。夕食もここでとることにして正解だった。部屋に案内されると、朝まで誰にも邪魔されないで過ごせるのだ。
すぐに食事を運ばせるように頼み、居間から寝室に入ったクロエを後ろからきつく抱き締めた。
「クロエ、やっと二人きりになれた。年明けから異動だったなんて直前に聞いて驚いたよ。もう君が財政に居ないから職場で毎日会えなくて僕寂しいよ……」
「私もです、フランソワ」
僕はたまらず、クロエを自分の方に向かせて唇を塞いだ。しばらく彼女の唇を貪り、その後は抱き合ったまま無言で体を密着させてお互いの温もりを感じていた。居間から食事が運ばれている音がしていた。
「クロエ、食事にする? それともお風呂?」
辛うじてお約束の『それとも僕?』とは聞かなかった。クロエの答えは分かっている。
「折角のお食事が冷めないうちに頂きたいです」
ほら、予想通りだった。我が家に来る時も、いつもクロエは美味しそうによく食べるのだ。料理は苦手だという彼女だが、やたらと調理法や素材に詳しいのは調理師の卵である妹の影響なのだろう。
今夜もクロエはよく食べたが、流石にデザートまでは入らないようだった。
「フランソワ、私もうこれ以上食べられません」
「じゃあ後で食べようか。夜は長いのだから」
「下げられてしまわないのですか?」
「もう朝までここには誰も入ってこないよ。僕達二人だけだ」
遂にこの時がやって来た。僕はデザートよりも君が食べたい。いや、その前にクロエも風呂に入って体を洗いたいに違いない。
彼女に先に入浴するように勧め、僕は部屋の中を
道具を使ってクロエを攻めるのもイイな、攻められるのも悪くはなさそうだ、グフフ……まあとにかく、彼女の趣味は分からないし、初心者だから……今夜のところはこちらの引き出しには用はないだろう。これからお互い開発していけばいいのだ。丁度引き出しを閉めたところでクロエが出てきた。
クロエは宿備え付けのローブを着ている。布地は薄そうで、しかも膝丈だ。紐を
「じゃあ僕も急いで入るから。体を冷やさないようにね、まあすぐに僕が温めてあげるけれど……」
「フランソワ、滑るので気を付けて下さい」
そうだ苦労してやっとここまで来たのだ。浴室で転んで怪我なんかして、とっておきの夜を台無しにするわけにはいかない。
みずみずしい果実が僕に食べられるのを寝室で待っているのだ。急いでいたが念入りに全身を洗って、歯も磨いてバッチリの状態で寝室に戻った。まだまだ洗濯板は現れていないものの、日頃の鍛錬のお陰で胸板も二の腕も逞しく育っている。
クロエに見せびらかしたいがため、下半身にタオルを巻いただけで出ていった。下半身の方もすぐに見せびらかしてやるからね。彼女は毛布にくるまって椅子に座って待っていた。
「クロエ、寒いのなら寝台に横になって待っていてくれれば良かったのに」
「あ、いえ、それでも……」
「おいで……」
******
詳しい描写は省くことにする。まあこれは二人だけの秘密だ。今夜やっと苦労してやっとベッドインでき、感慨無量だった。
誘拐事件に始まり、彼女の病気など色々ハプニングを乗り越えて辿り着いた、それに見合う一夜だったとだけ言っておこう。
僕もしばらくの間クロエホールだけで我慢していたから、思わずがっついてしまったのは否めない。
難攻不落でお堅い処女の筈のクロエだが、彼女の方から僕に手合わせを頼んできただけあって、閨ではデレデレになって思ったよりも積極的でいやらしかったのだ。冷凍マグロどころかピンピンのイキの良いマグロだった。グフフ。
一戦交えた後は二人共裸のまま寝台でシャンパンを飲みデザートを食べた。寝台の上で素っ裸で飲食をするという事にクロエは抵抗があったようだ。今更そんな恥ずかしがることでもないだろうが、何だか無性にそんなところが超可愛い。意地悪で彼女が羽織ろうとしていたローブを遠くに放り投げて僕の腕の中に閉じ込めた。
「こんなお行儀の悪いこと……」
「クロエ、どうせ誰も見ていないから大丈夫だってば」
日頃の疲れが溜まっていたのだろう、クロエはその後すぐに寝入ってしまった。僕も幸せを感じながら彼女にぴったりとくっついて眠りについた。
翌朝も気持ちよく目覚めた。クロエは先に起きていて、もうローブを着て身支度をしているところだった。
「ねえ、クロエ、お早うのキスして?」
甘えて口付けをねだってみた。彼女は寝台にまだ座ったままの僕に歩み寄ってキスをくれた。こんなのも悪くない。
「どうだった、初めての夜は?」
「はい。とても良い思い出になりました。全て貴方のお陰です」
クロエのことがもっともっと好きになりそうだった。
朝食が運ばれてきたようで、食事は着替えてからというクロエをローブのまま無理矢理食卓につかせた。恋人同士が一緒に迎える朝なのだから、はしたない恰好で充分なのだ。それに僕は食事の後にもう一戦交える気満々である。
「まあ、美味しい。焼きたてだと何でも美味しいのはもちろんですけれど、このパンは尚更です。妹だったらきっとどうやったらこんなパンが焼けるのか気になってしょうがないと思いますわ」
クロエは食事の質に喜んでいる。僕の思った以上の反応だ。家族思いのクロエにお土産として焼きたてパンを持たせることを思いついた。我ながら素晴らしい名案だ。
***ひとこと***
念願の一夜が過ごせて良かったね、フランソワ君。それにしてもクロエの脳内では細部までの観察&生物学的な思考がなされていましたよね。作者の私も今思い出しました。
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