第二十一話 真面目女子、更に爆走する


 私たちは遂に二人で朝を迎えてしまいました。


「ねえ、クロエ、お早うのキスして?」


 寝台に体を起こしてフランソワは甘えた声でキスをせがんできます。そんな彼も何だか可愛らしくて好きです。着替えは後回しにして寝台にまだ座ったままの彼に口付けました。


「どうだった、初めての夜は?」


 フランソワのことがもっともっと好きになりそうでした。


「とても良い思い出になりました。全て貴方さまのお陰です」


 きっと昨晩のような素敵な一夜は最初で最後のことに違いありません。


「お嬢様に満足して頂けて光栄だよ」


 そこで私たちの部屋の扉を遠慮がちに叩く音がしました。


「ああ、朝食が来たみたいだ」


 後は着替えて帰るだけと思っていた私でした。朝食までここで頂けるのです。ドレスを着ようとしていた私はそのままフランソワによって食卓につかされました。


 このローブのままでフランソワと向かい合って食事をするのは気恥ずかしいのです。それにフランソワも同じローブをだらしなく羽織っただけで、裸の胸が見えているので目のやり場に困ります。


 確かに昨晩は性行為の後、二人で裸のまま寝台の上でデザートを食べるというお行儀の悪いことをしてしまいました。私がローブを羽織ろうとしたらフランソワにそれを取り上げられて遠くに放り投げられたのです。


 あれは特別で、朝の明るい光の中でこんな格好で食事というのは抵抗がありました。


 けれど食卓に並べられた美味しそうな卵料理にパンを見ると、ドレスを着る間も惜しいくらいすぐに食べたくなりました。


 フランソワがコーヒーを入れてくれて、私たちは食事を始めました。なんと出されたパンは焼きたてでした。


「まあ、美味しい。焼きたてだと何でも美味しいのはもちろんですけれど、このパンは尚更です。妹だったらきっとどうやったらこんなパンが焼けるのか気になってしょうがないと思いますわ」


 思わず感嘆の声を上げてしまいました。母や妹にもこんな美味しいものを食べさせてあげたくなりました。私一人が贅沢をしていることが後ろめたいのです。


 フランソワは朝食に少し手をつけただけでニコニコしながら私を見つめています。


「あの、はしゃぎすぎて申し訳ありません。えっと、昨晩の夕食もそうでしたが、出されるもの全てが美味しいので思わず……フランソワは召し上がらないのですか?」


「クロエ、君が美味しそうに何でも食べるのを見ているだけで僕は嬉しいよ」


 フランソワはそこで呼び鈴を鳴らして客室係を呼び、扉を少しだけ開けて何かを告げていました。


「ねえクロエ、腹ごしらえも十分出来たことだし、もう一回、いいでしょ? 昨晩は張り切りすぎて僕、早くイってしまったから。今度はもっとしっかり僕を感じて味わって欲しいんだ」


 早いとか遅いとか、分かりません。心得本には成人男性が射精するまでの平均時間なんて書いてありませんでした。


 それに味わうだなんて……もしかしなくても、その、口で奉仕しろとのことでしょうか。本で読みましたが、初心者にはかなりハードルが高そうです。性病の感染はともかく、妊娠の危険は無いにしても……それに、男性器から分泌される問題の液体は味わえるほど美味ではなく、むしろその反対だと書いてあったような……


「あの、私、ご存知の通り経験が皆無なので自信ないですし、その、でも……」


「大丈夫、僕に任せてよ。今度は君を中でイカせてあげる」


 いっぱいいっぱいの私は、たった今彼が言ったことをちゃんと聞き取れませんでした。


 確か僕に任せろ、君の中でイカが何とか……と言うことは……鼻をつまんで私の開いた口に無理矢理男性の器官を挿入し、ある軟体動物のような匂いがするというその体液を放出するのでしょうか……益々不安になってきました。


 フランソワは昨晩ねやの中では普段の優しい彼ではなく、なんだか強引で意地悪だったのです。大いにあり得ます。


「い、いえ、私の方こそ、上手く出来るかどうか分かりませんけれど、頑張りますから!」


「クロエったらぁ、そんなに固くならなくても大丈夫だってば。大体もう硬くなっているのは僕の方だよ、ほら」


「ひぃっ……」


 彼はまだ食卓についている私の後ろ側に回って、私の肩を抱き下半身を摺り寄せてくるものですから思わず変な声が出てきました。


「ごめん、下品なことを言って。でもクロエがねやでは普段とうって変わって情熱的でエッチなのが良くないのだから」


 みだらな行為に及んでいるのですから普段と違うのは当たり前ですが、それでも彼の満足そうな笑顔に私も幸せになります。こんなつたない私が相手でも、彼が男性として反応して、その大事な器官に血液が集中しているのです。私のはだけたローブの胸元にフランソワの手が入ってきました。


「あぁ、フランソワ……」


「さ、おいでクロエ……」


 焼きたてパンをもう一つだけでも欲張って食べておきたかった私です。少し後ろ髪を引かれる思いの私をフランソワは立たせ、横抱きにして寝台まで連れていきました。




 二度目のお手合わせは朝の眩しい光の中で、よりお互いがはっきり見えて益々恥ずかしかったです。


 心配していた内容はほぼ昨晩と同じで、口腔を使った行為は求められなかったので少し安心しました。そちらはもう少し経験を積んでからでないと私も自信がありません。


 それから、昨晩は痛いというよりも、異物が入ってきているという違和感が大きかったのですが……今朝は何と表現したらいいのか、下腹部の奥や女性の器官がギュッと締め付けられる感じで……フランソワが激しく動く度に、とても甘く切ない感覚がこみ上げてきたのです。新しい発見でした。


 フランソワと夜を過ごし、彼の温もりに包まれて眠り、こんなに満たされた幸せを感じられるなんて、女として生まれてきて良かったとしみじみ思いました。


 私の母は以前こう言っていました。


『お父さまは美男子で優しくて、私のような平凡な女の子は彼に言い寄られて求婚されて有頂天になってしまったのね』


 母の結婚生活は数年で破綻してしまったとはいえ、母の気持ちが今になって痛いほど分かりました。




 その日は休みで、日が高く昇るまで二人寝台の中で過ごしました。気だるい体をゆっくりと起こし、ドレスを着ようとしていた私は、なんとフランソワに浴室に連れていかれ、体中隅々までを彼に洗ってもらったのでした。


「僕はあと一発くらいデキそうなのだけど、君がもうふらふらで足腰立たないみたいだから、やめておくよ」


「申し訳ありません、フランソワ……貴方の溢れんばかりの情熱を受け止められる体力が残っていないみたいです」


 もう一度くらい思い出に追加したいのは山々だったのですが、フランソワの言う通り、私に体力は残っていませんでした。彼は何故かそこで顔を赤らめています。


 その後、寝室に戻って下着とドレスを着ようとして、問題に気付きました。


 昨晩のために普段はしない簡易コルセットまで着て来たことを少し後悔しました。脱ぐのは簡単ですが、着るのが少々厄介なことを失念していました。


 家では鏡を見ながら一人で出来るのですが、今朝は悪戦苦闘していました。恥ずかしいこと限りないです。


「クロエ、僕がやってあげるよ。紐を引っ張って結べばいいのでしょ?」


「はい、ありがとうございます」


「あった、この紐だね」


「ん、あぁ、そんなにキツく締め付けないで、下さい」


「もう、クロエったらぁ、それって僕の台詞じゃない」


「はい?」


「い、いえ、何でもないです、ごめんなさい」


「???」


 フランソワはやっぱりもう一回とかなんとか言いながら紐を緩めてくれました。




***ひとこと***

題名通りで申し訳ございません。クロエの脳内人体学的考察は益々拍車がかかっております……

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