第二十話 真面目女子、突っ走る


 私はローブ姿をフランソワに見られるのが気恥ずかしく、恐る恐る浴室の扉を開けて寝室に戻りました。


「フランソワ、お待たせしました。貴方もお入りになりますか?」


「あ、早かったね」


 フランソワの視線が私の全身をさっと舐めたような気がしました。ローブの前を再び確認してしっかりと合わせます。


「じゃあ僕も急いで入るから。体を冷やさないようにね、まあすぐに僕が温めてあげるけれど……」


 そしてフランソワは速足で浴室に入って行きました。


「フランソワ、滑るので気を付けて下さい」


 さて、私はどこで彼を待てばいいのでしょうか。とりあえず寝台横の椅子に座って考えました。


 寝台に入って横になっているのはありでしょうか、だとしたらこのローブを着たまま、それともローブは脱いで下着だけで、それとも下着も全部脱いで……考えていると少し肌寒くなってきました。


 私は毛布でもないかと探します。寝台脇の台の棚にはありませんでした。小さな引き出しを開けてみると、マッサージオイル、潤滑ゼリーなどがありました。ご自由にお使いくださいと書かれています。避妊具もあります。よろず屋で取り扱ってはいるものの、実物をまじまじと見るのは初めてでした。


「消耗品は使い放題なのね」


 寝台の反対側にも同じ台があってそちらの引き出しには何やら器具が色々入っていました。


 すりこ木やツボ押し器のようなもの、縄跳びの縄、皮ベルト、洗濯ばさみなどです。


『汚れ防止用シートは別料金で貸出中。こちらに常備していないものはお問い合わせください』


 そんなことが書かれているカードまでありました。


「謎の道具ばかりだわ……これらはどうやって使うのかしら?」


 問い合わせたら借りられる特別な道具も気になります。シートを敷かないと部屋が汚れるようなこと……何なのでしょうか……


 フランソワが出てくる前に引き出しは閉めました。箪笥の中に見つけた毛布にくるまって私は椅子に座って彼を待っていました。


 何とフランソワは下半身にタオルを巻いただけで出てきました。彼は文官なのに裸の上半身は意外と逞しくて、何となく目のやり場に困ります。


「クロエ、寒いのなら寝台に横になって待っていてくれれば良かったのに」


「あ、いえ、それでも……」


「おいで……」


 私は彼の腕に抱きとめられました。毛布は落ちて、私の唇を奪いながらフランソワの手は色々な場所をまさぐってきます。今まで彼に触られたことのないところばかりでした。


 何度も抱きしめられているので私の胸がいかに小さいか、フランソワはもう承知のことでしょう。実際に手で触れてみて更に落胆したのでは、と心配になりました。本人に聞くのも恥ずかしいです。


 彼の手の動きは止まらず、私はくすぐったいような生温かいような不思議な感覚に襲われて、立っていられなくなりました。


「フランソワ……あ、あぁん……」


 フランソワの裸の背中にギュッと掴まりました。


「さぁ、クロエ……」


 彼は掛け布団を剥ぎ、そこに私をそっと横たえてくれました。いつの間にか私のローブは前も完全にはだけていて、彼にそのまま脱がされてしまいました。それに、フランソワがまとっていたタオルもどこかに消え失せていました。


 私もあの本でしっかり予習をしたとは言え、実際に成人男性の裸、特にさらされた鼠径そけい部を目にしたのはもちろん初めてでした。


 挿絵と実物は違います……挿絵はかなり簡略化して描かれているようです。白黒の挿絵より何と言うか、実際の生もの、という感じで不気味です。


 けれど人のことは言えません。私の陰部も一度鏡で見てみたのですが、自分で自分のものが生々しくて気持ち悪くなりました。


『……こんなものをねやでは他人に晒さないといけないのかしら……無理だわ、私には絶対ムリよ。けれど夜だったら灯りを消してしまえばいいのだわ……そうよ』


 その時は鏡を直ぐに置いてそうつぶやいてしまいました。ですからお互いさまなのです。


 それでもフランソワの下半身に股間をチラリと見ただけで驚いて私は目をいてしまいました。


 陰茎の大きさや太さも挿絵から大体想像していたのですが、実際に本物を目の前にすると……何と言うか迫力が違います。確かに挿絵は実物大ではありませんが、本だけでは中々学べないことも多いのだ、と改めて確認できました。


 怖いもの見たさで凝視するのも失礼に当たるでしょう。私だってフランソワにバスローブを脱がされ、裸をしっかり見られて恥ずかしさでいっぱいです。私は目をらしました。


「クロエ……綺麗だよ。こっち向いて、僕を見て」


 下半身の方が大いに気になりますが、私は彼の顔だけを見るようにします。彼は私の体の至る所に口付けています。


 薄明りの中ですが、脱いでもすごくない私の胸はもう隠せません。優しいフランソワは小さい胸に不満でもそれを口に出すことはないでしょう。


 彼の唇は胸よりもどんどん下に降りていきました。一枚だけ残っていた下着もあっという間に脱がされてしまいました。


「あ、いや……そんなところまで、恥ずかしいですわ……フランソワ」


「以前僕が口付けしてもいい? って聞いたら『どうぞお好きなだけ何処にでも』って言ったよね。あの時からもうアソコにもココにも口付けたくてしょうがなかったのだから……」


「え、えっ? そんな……」


「司法に勤めるクロエちゃんは前言撤回なんてしないよね」


 フランソワは意地悪そうな笑みを見せながら、唇や舌を這わせ続けます。手や指の動きも止まっていません。


「あ、ああぁ……いやぁん……わたし何だか……あ、もう、だめぇ……」


 私は何とも言えない感覚に襲われ、自分の体なのに大きな力にさらわれて、はしたない声を出しながら腰をのけぞらせてしまいました。


 フランソワは目を細めて嬉しそうにそんな私を観察しています。そして彼の口は再び私の体を上ってきて私の唇に辿り着きました。私は無我夢中で彼の唇の動きに応えていました。


「クロエ、僕もう限界……入れるよ」


「あ、あの、私の膣はきちんと貴方を受け入れられるのでしょうか……」


 フランソワはクスっと笑いをこぼしていました。エレインには生物学の講義をするな、と言われた私です、なるべく気を付けていたつもりなのです。


「大丈夫、力を抜いて、もうだいぶほぐれて濡れているよ、ほら」


 もう挿入されたかと思ったらそれは彼の指でした。それはすぐに引き抜かれて、今度は本当にもっと太い本物の男性の器官がゆっくりと入ってきました。


「フランソワ……」


 これで私の女性器が開通というか、そこを男性器が貫通しました。私の処女性よ、さようならです。念願の目的が遂に達成出来たのです。


「クロエ、痛くない? 少し動いてもいい?」


「痛みというよりも、何だか不思議です。圧迫感というか、私の中が貴方でいっぱいに満たされている感じです……」


「ああ、クロエ、僕もうダメ……」


 切なそうな顔のフランソワが私の上で前後に動き始めました。



******



 無事に私の処女喪失儀式は終わりました。その後は夕食で残したデザートをお互い食べさせ合い、シャンパンを開けて飲み、二人気だるい体を寄せ合っていたらいつの間にか寝入ってしまったようでした。




 翌朝、目覚めた時は一瞬自分がどこにいるのか分かりませんでした。しばらくして昨晩のことを思い出します。


 フランソワは隣でまだ眠っているようでした。夢ではなく、私はこうして無事、非処女として第一日目の朝を迎えたのです。


 彼を起こさないようにゆっくりと起き上がって寝台を降り、床に落ちていた私のローブを羽織りました。着替えをしようと鞄を開けたところでした。


「おはようクロエ、良く眠れた?」


 フランソワも目覚めました。彼の笑顔は私にとって朝日よりも何よりも眩しいです。


「はい。おはようございます。あの、フランソワも良く眠れましたか?」


 こうして朝を一緒に迎えるなんて、まるで恋人同士や夫婦みたいです。




***ひとこと***

遂に二人の念願通り、達成できました。良かった良かった。


それにしても、クロエの脳内人体学的考察はとどまるところを知りません。

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