&α 噛みつき
「起きたか」
「うん?」
「着いたぞ」
「うん。あれ、私」
「仕事だ仕事。今日も人助けするぞ」
「ひとだすけ」
「当然だろうが。NPOは人を助けてなんぼだからな」
「夢を見てた」
「は?」
「殺し屋なの。私。みんな殺して、そして、最後に殺されるの。あなたに」
「俺にか?」
「うん」
「お前を殺したら、いろんな人間に恨まれそうだな」
「なんで」
「だってお前、ごみ拾ったり人助けしたり募金したりしてるじゃん。そういう人間の全員から俺が恨まれるじゃん。考えただけでもこわいね」
「そっか」
「行くぞ」
「待って」
「ん」
「ちょっと。噛まないでよ」
「いきなり噛みついてきたからだろうが」
「キスしたつもりなんですけど」
「今のが?」
「うまくいかないなあ」
「俺は正直、こわい」
「それはさっき聞いたよ」
「いや。そうじゃなくて。お前の好意に応えるのが」
「なんでさ。恋人いないでしょ」
「恨まれるぞ。お前が助けた人たちに。俺が」
「は?」
「お前は人のために生き過ぎてるから。そういう人たちに恨まれるのが」
「だからなんで恨むのよ」
「人を助けるとな、依存されるんだよ」
「あなた、性根が曲がってるわね」
「うるせえよ」
「言われたのよ。募金の受付の人とか、一緒にごみ拾ってる人とかに。好きな気持ちはちゃんと伝えた方がいいって」
「その結果が突然の噛みつき行為なわけだ」
「キスのつもりなんですが」
「はあ」
「んうぅ」
「やめろ。もう一度しようとするな」
「なんで」
「わかったよ。車を降りろ。いいよ。それで」
「やった」
「だから噛むなって」
真逆の夢、噛みつき 春嵐 @aiot3110
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