第5話 過去

紗奈「壱馬のお母さん...。」


紗奈は、すぐに壱馬の両親の所へ駆け寄った。


壱馬母「紗奈ちゃん...。」


紗奈「ごめんなさい、ごめんなさい、私が、私が悪いんです...。私が、私が...。」


壱馬父「紗奈ちゃん...。」


紗奈「私が、壱馬のこと怒らせちゃって、壱馬はいっつも優しくて、私のわがままだって包み込んでくれて、でも、今日はもう絶対怒って帰っちゃって、それで事故に...。ほんとに、ごめんなさい、ごめん、なさい...。」


紗奈はその場に崩れ落ちた...。


壱馬父「紗奈ちゃん...。壱馬は怒ってなんかなかったんだよ...。」


紗奈「いや、でも、私がわがまま言って怒っちゃって、それで...壱馬は...。」


壱馬母「これ、多分紗奈ちゃんによ...。」


差し出された、袋の中には、カイロと、暖かい飲み物のペットボトルと、ゼリー、そして、痛み止めが入っていた。


紗奈「か、ず、ま、、、。なんで、、、」


壱馬母「壱馬にとって、紗奈ちゃんは大切で特別な存在だったのよ。家でも口を開けば紗菜ちゃんの話だし、紗奈が紗奈がって言って口癖のようだったんだから。壱馬は、紗奈ちゃんが、いくら怒ろうが紗菜ちゃんの事を大切にしたいって気持ちは変わらないはずよ?」


紗奈「壱馬ーーー!!!」


紗奈は、病院ということも忘れて、泣き叫んだ。


壱馬は、一命を取り留めたが、いつ急変してもおかしくない状態だった。紗奈は、毎日寝らずに壱馬の手を握っていた。


紗奈「壱馬...。ごめん。私のせいで、ごめん、私がイライラなんてしてなかったら、壱馬が事故に遭うことなんてなかったのに...。ほんとにごめん...。かずま、、、」


そして、紗奈がいくら謝っても壱馬から返事が帰ってくることはなかった。事故にあってから5日後、壱馬は息を引き取った。


紗奈「壱馬!?壱馬!!嫌だよ!!お願い、目を覚まして。お願い、お願い、英語の宿題してあげるし、もう、壱馬のたい焼きも食べない。壱馬の好きな事してあげるし、お願い聞いてあげる。ねぇ、ねぇ、ねぇ!!本当は、目覚ましてるんでしょ?いつもみたいに、驚かすんでしょ?ねぇ、壱馬...。」


母「紗奈っ...。」


紗奈は、動かなくなって冷たくなった壱馬の唇に、何度もキスをした。


紗奈「ほら、キスで生き返るってやつでしょ?この前一緒に白雪姫見て、これ文化祭でしたいねーって言ってたじゃん!!!!」


壱馬母「紗奈ちゃん...。」

壱馬父「紗奈ちゃん...。」

母「紗奈...。」

父「紗奈...。」


その日から、紗奈は何度も何度とも、自殺を試みた。自分のせいだと責めては泣いて、止められては叫んで、壱馬に会いに行きたかったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君の背中は… アイレン @rensou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ