第9話 マリナードを覆う影

 これは人魚族の歴史の話で、なおかつ神話とか伝説とかがベースになっている話だ。考古学的な裏付けがある話じゃない──ということを、まずは前提として覚えていてほしい。


 太古の昔、人魚族は海の中で暮らしていた。

 ここで言う〝海の中〟っていうのは、文字通りの意味で、大気に触れることなくずっと水の中で暮らしていたっていうこと。

 そんな生活を送っているとどうなるかと言えば、文化文明がなかなか育たなくなってしまう。


 そりゃあね、海中だもんね。


 火は使えない、海流のせいで建築物もすぐに劣化する。魔法で耐久度を上げたところで、古いものはアッという間に劣化して消えていく。

 そんな理由もあって、古代人魚族は陸地の人類よりも前時代的な生活が長かったらしい。


 それでもね、言うて人魚族だって陸地での生活はできるのよ。


 ただ、それをするにしても水辺からは完全に離れられない。人魚族は、陸地での生活に完全に適合できるわけじゃなかった。

 例えるならば、陸地の人類が生きていく上で必要な食糧や道具の材料などを、海に潜って取ってくる──みたいな感じかしら?


 それがどれだけ大変なのかは、言うまでもないでしょう。


 そもそも陸地には、あたしみたいな陸上生活を送る人類がすでにいるからね。

 陸地に弱い人魚族は、多種族からの迫害や差別に苦しんでいた時代もあったようだ。人魚族が海の側に街を作っても、他種族からの攻撃に抗うことはできなかったのよ。


 結果、人魚族は他の種族から一段下に見られる苦しい時代があったらしい。


 そんな古代人魚族の生活に革命が起きたのは、海底に巨大な気泡を発見したことだった。


 その気泡は、どういう理屈かはわからないが決して割れることもなく、太陽の巡りと同じ周期で明滅を繰り返す場所だった。

 出入りしても気泡は割れることはなく、どれだけ長く居ても空気が濁ることもない。


 まるで、その一部分だけが大海から切り離されたような、かくも不思議な場所だった。


 そんな不思議な場所は、陸地に居場所のない古代人魚族にとって夢にまで思い描いた理想郷だった。

 これこそ彼らの主神、海龍神ティアマトからの恵みであると感謝し、古代人魚族はこぞって巨大気泡に移り住んだ。

 それが人魚族の国、マリナードという国の始まりであるらしい。


「マジな話、そんな気泡なんて作ったの?」


 陸地で言うところの夕暮れみたいな明るさの空……というか、気泡の天井? を見上げながら、あたしは隣のティアに聞いてみた。

 だって、ねぇ? 人魚族が崇めてる主神ってティアなんでしょう? しかも七神龍の一柱とかなんとかと勝手に決めつけてさ。そんなわけないのにね。

 でも、もしそんな人魚族の神話? 伝説? が事実だとすれば、この気泡はティアが作ったってことになるじゃん。


 ホントかなぁ~?


「いや、我がそんな真似するわけなかろう」


 ……あっさり否定されちゃった。


「そもそも、我は海の聖獣であるぞ。そんな我が、なぁんで海の底に海水が及ばぬ空洞を作らねばならんのだ?」

「……もっともすぎて、ぐうの音も出ないわ」


 容赦なく人魚族の歴史が否定された瞬間である。古代のロマンは、やっぱりロマンでしかないらしい。


「じゃあこの場所って、自然発生した場所ってこと? 自然にできるもんなの、こんな都合のいい空洞が」

「そういうこともあるんじゃなかろうかな? ……あー、そういえば」


 あたしがこの場所の不自然さに疑問を抱いていると、ティアは何かを思い出したみたいな声を出した。


「ルティーヤー様から異界断絶の要石を下賜された際、この場所のことを教えられた……ような、気がするのぉ……?」

「え、そうなの?」

「だったような気が……いやあ、かなり昔のことだからな。記憶も曖昧でのぉ」


 頼りにならない記憶力……と言いたいとこだけど、それって古代人魚族がこの気泡の中に住み始める前のことよね? そりゃ、そんな大昔のことなんて事細かに覚えてないのも仕方ないか。

 それならルティだったら、この気泡がなんでこんな風になってるのか知ってるのかしらね? だって、ティアにこの場所のことを教えて張本人なんだから。


「それより契約者殿、我らはいつまでここに足止めされるのだ?」


 ティアが胡乱な目つきであたしに聞いてくるけれど、あたしだってわからない。

 今、あたしたちは人魚の国マリナードの……なんだここ。港? いちおう、港って表現でいいのかな。あたしとエオルが作った潜水艇に似たフォルムの……たぶん、人魚族の船っぽい乗り物が、いくつも並んでいる場所に足止めされている。


 なんせ国に入る状況が状況だったからね。衛兵隊にいろいろ報告しなくちゃならない。


 その役目はジョルナが担ってくれている。あたしらは、そんなジョルナが戻ってくるのを待ってるしかないのだ。


「もうしばらく、大人しく待ってなさいよ。それより……あんたの方はどうなのよ」

「うん?」


 あたしの問いに、何故かすっとぼけた表情を見せるティア。

 まったく……もうちょっと自分の目的と真摯に向き合ってもらいたいもんだわ。


「異界断絶の要石の話よ。それを探しに来てるんでしょ? なんかこう……気配みたいなのを感じ取れたりしないの?」

「気配といわれてもなぁ……」


 アタシの言葉に、ティアは困ったように頭を掻いた。


「アレはなんと言えばいいのか……気配らしい気配が〝ない〟のだ。触れることはできるし見ることもできるが、ふと気を逸らすと忘れてしまうような……実在してるかどうか不安になるものなので、見失ったらお手上げなのだ」

「何それ? 謎かけかなんか?」

「率直な意見であるぞ」


 触れられるし見えるのに、気を逸らすと忘れちゃう……? ちょっと言ってる意味がわからないわね。


「だからこそではあるが、人魚の国に来たからと、異界断絶の要石がどこにあるのかなんて察することもできん。使われれば、なんとなくわかるかもしれんがな」

「ふむ……」


 そうなると、ここに異界断絶の要石があるのかどうかも怪しい……いや、その可能性は状況的に見て低いかなぁ。

 大前提として、異界断絶の要石が人魚族が国教にまでしている海神教の宝珠で間違いないとして……それは今、行方不明ってことになっている。

 けど、ジョルナはその行方は海神教の厳格主義派の手にあると考えている。その行方を追って地上まで出てきたというのは、本人が暗に語っていたことだ。


 もし、本当に厳格主義派が異界断絶の要石を持っていたとしたら、ジョルナを襲った理由はなんだろう?


 正直に言えば、ジョルナってまったく、微塵も、これっぽっちも戦闘に向いてるとは思えない。間諜としても下の下だと思う。

 そんな相手を、わざわざ迎え撃つ必要ってないと思うんだよね。ジョルナじゃ異界断絶の要石の在処を探し出せそうもないし、放っておいても問題はなかったはずなのよ。


 なのに、襲った。


 何故か?


 それはつまり、ジョルナを捕らえて異界断絶の要石がどこにあるのか聞き出すため、あるいはジョルナを人質に、知ってそうなヤツから聞き出そうとしたんじゃないかしら?

 逆に、厳格主義派が本当に異界断絶の要石を持っているのだとしたら……ちょっとお手上げかもね。

 まぁ、あたしの勝手な想像だから、実際どうなのかは蓋を開けてみないことにはわからないけど……おや?


「やれやれ……」


 海獣に襲われた潜水艇の状態を確認していたエオルが、頭を掻きながらやってきた。


「潜水艇の様子はどう?」

「パッと見た感じは問題なさそうですがね、詳しく点検してみないことにはなんとも。それで問題なけりゃ明日には動かせるんじゃないですか?」

「問題あったら?」

「次に店の大型潜水艇が来るまで、ここに足止めでさぁ」


 それはまた……なんともないことを祈るばかりだわ。


「あたしも手伝いたいところではあるんだけど……ちょっと野暮用があって、手を貸せないの。ごめんね」

「姐さんの野暮用ですかい?」


 あたしの言葉に、何故かエオルが眉間に皺を寄せた。どうしたどうした。


「この国が滅びるような野暮用じゃねぇでしょうね?」


 なんで国が滅びるって話になった? ん?


「あたしの野暮用で国が滅びるかっ!」

「だといいんですがね。頼みますよ、ホントに。人魚の国はウチの店のいい取引相手なんですから」

「あのねぇ~……」


 なんかなぁ。

 似たようなことを、知り合いのほとんどから言われてる気がするわ。

 あたしの評判どうなってんのよ。


「契約者殿、ジョルナが戻ってきたようだぞ」


 ティアが顎をしゃくって示した方に目を向ければ、確かにジョルナがこっちに向かってくる姿があった。

 それに、同行している人影も何名か……誰だ?


「お待たせして申し訳ありません、イリアスさん、ティアさん」


 ててて、と駆け寄ってきて頭を下げるジョルナだけれど、あたしの目は一緒に付いてきた、妙に小綺麗な衣服に身を包んだ男の方に向けられていた。

 この人だけが、他の数名とはちょっと雰囲気が違う。オーラとかそういうんじゃなくて、ワンランク上の衣類に身を包んでいるって意味でね。


「ようこそ、マリナードへ」


 合掌して軽く頭を下げる上質な身なりの彼に釣られて、あたしもついつい「これはご丁寧に……」なんて応えながら返礼しちゃってた。

 だって妙に威厳あるんだもん、この人。着ている衣服のせいかな?


「こちら、枢機卿のお一人であらせられるジューダス・オルトー様です」

 なるほど、枢機卿か。それで身なりがいいわけね。

 そして、名前はジューダス……あれ? どっかで聞いたような……ああ。


「次期教皇に選出されてる方?」

「そうです」


 納得するあたしに、ジューダス枢機卿は柔らかな笑みを見せてきた。


「改めて、私はジューダス・オルトーと申します。崩御された前教皇様の相談役として、御側におりました」


 ふぇぇ~……めっちゃエライ人じゃん。というか、ジョルナを陸地に逃がした枢機卿が次期教皇に選ばれた人だったこと、最初に教えてほしかったわ。


「陸地での出来事はジョルナから聞いております。彼女を救ってくださり、心より感謝いたします」

「いえいえ、そんな。ただ……何やらきな臭いことになっているようですね」

「……事情はあらかたご存じのようですね」


 どこか疲れ切ったような笑みを浮かべ、ジューダスは「場所を移しましょう」と促してきた。確かに、こんな野外のだだっ広いとこで、海神教の宝珠に関わる話はできないわ。

 そういうことであたしとティア、エオルの三人は、ジューダスさんの邸宅に場所を移すことになった。


「マリナードに滞在なされている間は、この家を自由にお使いください」

「外出も、自由にして構わない感じですか?」

「今は……あまり出歩かない方がいいかもしれません」

「宝珠が行方不明だからですか?」

「………………」


 なんか渋い顔をされたけど、まどろっこしい腹の探り合いみたいな真似はやってらんないからね。単刀直入に話を聞きたいのよ、こっちは。


「詳しい状況はジョルナから聞いています。もしよろしければ、宝珠探しにご協力いたしましょうか?」

「あなたが……ですか? いや、それはしかし──」

「ああ、大丈夫ですよ。こう見えて、地上では失せ物探しに荒事など、多少危険な仕事もしてますから。これも何かの縁ですし、お力添えいたしましょうか?」


 あたしからそんな風に提案してみたけれど、ジューダス卿は「……ありがた申し出ですが……」と首を横に振った。


「宝珠に関しましても、すべては我が国の問題。国外の方のお手を煩わせるのは忍びない」


 ん~……物腰柔らかくはあるけれど、つまりは「部外者が首を突っ込むな」ってことか。

 まぁ、そう言われるのも仕方ない。

 国の最重要な宝が行方不明ってだけでも不名誉な話なのに、その宝探しを部外者にやらせるなんて恥の上塗りってもんよね。


「そうですか。出過ぎた真似をしましたね、忘れてください」


 下手に食い下がっても仕方が無い。ここは素直に引きましょう。あたしだって、国家の重鎮と一悶着起こしたいとは思わなからね。


「いえ、こちらこそ。お心遣い痛み入ります。それはそうとイリアス殿は確か……探求者を生業にしておられるとか」

「え? あー、ええ、まあ」


 そういやそうだった。

 ジョルナには冒険者や商人でなく、世界を見て回り、地図を広げていく探求者って仕事を生業にしてるって説明してたっけね。


「探求者ともなれば都市をよくご覧になりたいでしょう。できればご案内したいところですが、今は自由になる時間も少なく……ご案内できないのが残念でなりません」

「いえそんな、こちらも自由に散策させていただければそれで……できますよね?」

「それはもちろん……と言いたいところですが、お一人で出歩かれるのは控えた方がよろしいかもしれません」

「そうなんですか?」

「私が次期教皇に選出されていることは、ご存じでしょう?」


 そういえば、そんな話はジョルナが言ってたわね。だからジューダス卿の名前を聞いた時にびっくりしたもん。


「正直なことを言えば、私はまだ若輩者。教皇に選出されるのもおこがましい立場なのです。それでも私が選ばれたのには理由がありまして」

「というと?」

「他の候補者が皆、鬼籍に入ってしまったからです」

「それは……」


 他の候補者が何人いたのか知らないけれど、わざわざ〝皆〟って言うのなら、一人や二人じゃないんでしょう。

 それが全員鬼籍に入ったって言うのなら……ちょっと、尋常じゃないわね。


「殺された……ということですか?」

「他殺である──というのは間違いありません。犯人はまだ捕まっていませんが……残念ながら、それだけマリナードの治安が荒んでいる証拠とも言えましょう」

「………………」


 それは十中八九、権力争いの果てに起きた事件よね。

 まったく関係ない外国人のあたしが出歩いたところで、襲われるとは思わないけど……いや、そんな事件が起きてるからこそ、見慣れない部外者は問答無用で怪しまれるかもしれないってことか。


「出かけるときはジョルナを連れて行くといいでしょう。いいね?」


 ジューダス卿の言葉に、ジョルナが黙礼を返した。


「それでは、私はこれで」


 ぺこりと頭を下げて、ジューダス卿は去っていった。


「なんだかキナ臭いことになってやすねぇ」


 一緒に話を聞いていたエオルが、うんざりしたような表情を見せている。あたしだって同じような顔をしたくなるわ。


「姐さんがなんの目的でこの国に来たのか知りやせんが、やべぇことになるんだったら早めに言ってくださいよ」


 そう言って、エオルが足を動かした。


「どこ行くの?」

「潜水艇の整備でさぁ。いざって時に脱出できる足がねぇと詰むじゃねぇっすか」

「あー、じゃあティア」

「ん?」


 あたしとジューダス卿の話を興味なさそうに聞き流していたティアにちょっとは働いてもらいましょう。


「万が一もあるでしょうから、あんたはエオルと一緒にいてあげて」

「えぇ~……我も観光したいぞ」

「ティア?」


 この子ってば、相変わらず危機感ないわね。まさか本気で、あたしが観光しに来たと思ってるんじゃないでしょうね?


「大人しく、あたしの言うことを聞きなさい」

「ちぇ~」


 ちぇ~、じゃないのよ。ちぇ~、じゃ。


 それでもティアは、あたしの言いつけを守ってくれるらしい。エオルと一緒についてってくれるようだ。


 んじゃ、あたしは──。


「どちらに行かれますか?」


 どうしようかと悩んでいると、ジョルナがそんな風に申し出てくれた。

 それはそれで有り難いけど……んー……。


「観光よりも先に、マリナードの状況を詳しく教えてもらいたいかな」

 何度も言ってるけど、あたしらの目的はマリナードの国教である海神教の宝珠、異界断絶の要石を手に入れることだ。


 そのためには情報がほしい。


 特に、異界断絶の要石を所有していた海神教の内部状況を、より詳しく知っておくことは何よりも大事である。

 そしてジョルナは、そんな海神教内部の人間である。内情を確認するには、もってこいの相手なのよね。


「ジューダス卿が言うには、他の次期教皇候補が殺されたって話だけど……それで街の治安も悪くなってるってこと?」

「ああ、それは……最初に亡くなった方が自由穏健派の方だったことが大きいかと」

「どういうこと?」

「前教皇が崩御され、次期教皇と目された方が暗殺されたことで、厳格主義派の犯行だと決めつける言論が国民の間で流れ出したのです」

「自由穏健派の人たちが、次期教皇の座を狙う厳格主義派の犯行だと決めつけたわけだ」


 確かに、次期教皇と目される自由穏健派の人が殺されたのなら、そう思うのは仕方が無い。

「けれど、それは間違いなのです」

「間違い?」

「殺されているのは、自由穏健派の聖職者だけではありません。厳格主義派の方も殺されているのです」

「え、そうなの?」

「ええ……。ですから、どちらかの派閥を狙った計画的な犯行ではなく、無差別な犯行じゃないかとわたしは思っているんですが……」

 なんだか言葉尻を濁しているけれど、ジョルナとて確信を持って「無差別の犯行だ」とも断言できないんでしょうね。

 だって、海神教の聖遺物である宝珠が紛失しているんだもの。

 そんな重要アイテムが紛失し、次期教皇候補が何人も死んでいる──となれば、やっぱり政争が絡んだ犯行って考えは、拭えないわよねぇ。

「つまり……今の状況だと、どっちの教派でも命を狙われる状況になっているってことね」

 あたしの言葉に、ジョルナは弱々しく頷いた。

「そういう事情もあって、ジューダス卿はわたしに、陸地に避難するようにとおっしゃってくださったのです」

 その陸地で、厳格主義派の過激派っぽいのに襲われたのは予想外だったってことかしら。

「なんであれ、派閥争いで人が死ぬなどあってはならないことです」

 ジョルナが、こぼれるように言葉を漏らした。

「信奉する神は同じなのに、教義の違いで争い合うのは悲し過ぎるじゃありませんか。自由穏健派であろうと厳格主義派であろうと、祈る願いは日々の安寧であるはずなのに」

「……そうね」

 あたしはどこの神様だろうと信じてないし、信奉もしてない。

 けど、今日も一日元気で美味しいご飯が食べられますようにってことは、なんとなくだけど毎日考えている。

 それが平和ってもんでしょう?

 結局、人は神様に祈ろうとも祈らずとも、根本の部分では祈る願いは同じなのよ。

 じゃあ、信仰ってなんだろうって思うけれど……それはまぁ、あたしがこうだと決めつけるもんじゃないんでしょうね。

「ええっと……それで今日は、これからどちらに行ってみましょうか? どこへでもご案内いたしますよ」

「え? あー……」


 どこへでも、という申し出はありがたい。異界断絶の要石を探すには、自由穏健派や厳格主義派の総本山や、教皇の居城へ行ってみたいところではあるからね。

 でも、うーん……今日は──。


「ま、到着したばかりだし、今日はここでゆっくりしましょ」


 ジョルナは陸地で散々な目に遭ってるからね。せっかく故郷に帰ってきたんだから、ゆっくり過ごせたいじゃないの。


 ──そう思っていたんだけれど……。


「たっ、大変です!」


 翌朝のことだった。


 だだっぴろいリビングみたいなところでジョルナと二人、朝食を食べていると、昨日ジューダス卿と一緒にいた……たぶん、側仕えの人なのかな? その人が、息を切らせて飛び込んできた。


 ちなみにティアとエオルは帰ってきていない。エオルの性格からしたら、たぶんずっと潜水艇の整備をしているんだと思う。


「どうされたんですか、テレイズさん」


 ジョルナからの呼びかけに、テレイズさんは喉を鳴らしてつばを飲み込み、なんとか息を整えてから口を開いた。


「じゅ、ジューダス卿が……死亡されました」

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