第2話銀河鉄道の夜
まだ読んでいない方、ただただ書くので注意です。
ジョバンニにとって、あの旅は突発的な白昼夢のようなものの1つに過ぎないのだろう。白昼夢の一つになるしかない虚しく素晴らしい旅だったのだろう。
ジョバンニが目覚めてからの現実は速く、私の予想外に簡素に、冷たく硬いものだった。
それにうろたえ、何度か夢から覚めた現実の部分だけを読み返すこととなった。
ジョバンニとカムパネルラが久しく二人で過ごした濃密な旅の時間は繊細で緻密に、延々と続くように描写されていく。
それを読み終えた人間のどこに、これを現実でないと信じられる人間がいただろうか。
小説には短く書かれていた。飛び起きた、涙が流れたと。
だがそれで信じられた人間はあの長い描写を読み終えた後にはきっといないのだ。
簡素で美しくない現実の描写で、ジョバンニと私達はカムパネルラがいない事、大人達と周辺の人間が川に群がってカムパネルラを探している事を知る。
ジョバンニは何もする事もできない、名前を呼ぶことだってできない。
それを知った時はジョバンニの性格を完全に理解する事などできなかったが、それを行う必要はないのだ、この小説では。
ジョバンニはどうしてあの時叫ぶ事ができただろうか、出来ないのだ、自分の事をろくに覚えていなかった彼の父親にどうして何か言うことが出来ただろうか。
答えは無論決まっている。
ジョバンニはカムパネルラが死ぬまで父親が帰ってくる事を知らなかった。
それまでは父親が海で死んだ子供、死んでしまった事を純粋無垢な友達に言う事すら出来ない子供、という構図だったが、そこでジョバンニはどちらかといえば一般的な、普通の子供になってしまうのだ。
そこで思った、きっと父親の長らくの不在と死の噂がジョバンニの中で消えていくように、
あの夢ももはや夢以外になりようがないのだと。
カムパネルラの事は生来子供時代の素晴らしい友人として忘れることは無いだろうが、旅の途中で出会ったあの素晴らしい人達を思い出すことはきっとないのだ。
【もっと個人的な感想】
カムパネルラは少し子供で、大人びているとあんなにジョバンニが心の中で褒めちぎっていたのに、結局は子供でしかなかったのがとても愛らしくかわいい。
あの時は信じられなかったが、あれはもしかしたら夢だったのかもしれない。いや、私は現実だと信じている。
少なくともジョバンニも現実であり夢であったと信じていると思う。
だってあの時にはカムパネルラが死んでいる事を知らなかったのだから。そう思って無垢な少年は大人になってもそう思い続けているはずなのだ。
その尊さを現実か夢かで測ってはいけない。
あの小説は人によって解釈がとんでもなく違うのだと思う。なぜなら私の中に舞い込んできた感想のどれとも私の感想が合うことはなかったからだ。
大人になったジョバンニは、カムパネルラを一生覚え続けると考える人や、彼の死が深く心に刻まれると考える人もいた。
けれどそれはどうなんだろうか。彼らはそこまで親しい友人ではないのではないかと私は思う。
ジョバンニは無垢で友人が少なかった。
彼が唯一(周りよりは)バカにされずに話せたのがカムパネルラ、そして遊ぶ時間は悲しいことに時折に過ぎなかった。
友人のいない彼にとってはその時折だけが全ての友人との時間なのだ。
もちろんジョバンニにとってかけがえのない友人だった、だが、実際はカムパネルラもジョバンニがバカにされた時少し笑っていたし、それを恥ずかしく悔しく思っていたジョバンニもいるはずだ。
彼の悲しさの涙はあの夢の中での涙と、覚めた後の涙だけで本当は足りてしまっていたのではないだろうか。
これからの人生で彼らはかけがえのない友人になれていたのは間違いない、だが、彼らは小学生でその未来が訪れることはないのだ。
素晴らしい冒険の後に死んでしまった友を片時も忘れない主人公は漫画等の中には割と多い。
だが、きっとジョバンニはそんなには思い出さないだろう、そういう主人公ではない気がする。
時折の友との時間がなくなり、その代わりに父との時間が増えていき、噂は消え友ができ、健やかな日々を過ごす、そんな日々の中で段々とカムパネルラは抽象化され顔も忘れられていくのだ。(これは私の感想に過ぎない)
結局カムパネルラを一生片時も忘れないのは、45分で捜索を諦めた父親だけなのではないかと思う。
そして過去に戻れない事をまだ知らないジョバンニは、あの時一緒に歩いていた事を彼の父に教えなかったのを一生後悔するのだ。
もしかしたら、あの時まだ凍えた体を支えていたかもしれない、一生懸命に助けを求めていたかもしれない、そうあの旅を夢だと思うようになるにつれて。
読書感想文・銀河鉄道 公道° @syansyan
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