第13話 わたしと猫のナツ

ミカンが亡くなり間もなくして、今度は未去勢だったラグドールの男の子、ナツが倒れて病院へと連れていった報告を母から電話で受けました。


病院は、ミカンを看取ってくれたところと同じ。


知らせを受けたからには居てもたっても居られず、わたしは母たちと共に病院へ。


「・・・・・・この子も、今夜が山かもしれません」


お医者さんから言われた言葉に、母は何をやってるんだと思いました。

ミカンに続き、ナツまでも。

ナツは母が知らないうちに尿路結石を患ってしまい、結石が尿管に詰まってしまったことから排尿が上手くできず、尿の毒素が体内に留まってしまった事で、敗血症という致死率の高い病を併発してしまうか否かという瀬戸際でした。


案の定、ナツも入院です。


ナツはミカンと初めての顔合わせの際、ミカンに一目惚れしてしまったようで、それはそれはたくさんの求愛アピールをしていたそうです。

前記事に書いた通り、たくさん愛を囁いてくれたハズのナツに対し、ミカンは全く靡くことも無く、『ウザったいのよ!』と言いたげに盛大な猫パンチを披露し、それはナツへクリティカルヒットさせて求愛を断ってしまった、と。

そんなナツの悲しみと、ミカンが空へ旅立ってしまった事をどこかで察していて、ナツは生きることを諦めてしまったのかもしれないんじゃ。

そんな事を、この時のわたしは考えてしまいました。


ですがそれは恐らく“逆”だったんじゃないか、そうと思える展開が待っていたのです。


ナツが入院して数日、母からは電話で「峠は超えた」という連絡を貰い、ナツの一命が取り留められた事に安堵しました。

更には「ナツが退院したら、そっちで引き取ってほしい」と言われ、もうここまできたら(猫飼育禁止という約束をとうに破ってしまったから)と承諾し、ナツが退院を許された日にそのまま我が家へと連れてこられました。


きっとクタクタで疲れてるだろうな。

看病はどうしようか? と祖母と叔母の相談していたのですが・・・・・・その心配は杞憂に終わります。


「にゃおん!」


ナツは生死の境をさ迷ったとは思えないほど元気な姿で、そして大きな声で挨拶をして、我が家にやってきたのです。

ぐったりどころか体力は有り余っており、あっちをうろちょろ、こっちをうろちょろ。

食欲は旺盛で、獣医さんから処方された尿路結石を患ってしまった猫用のご飯を上げれば、ガツガツとたくさん食べる食べる。

なによりナツ自身の瞳には、生きようとしてる強い光を感じました。


もしかして生死をさ迷っていた時のナツにミカンは姿を現し、『まだ死ぬんじゃないわ。あんたが死なないように、あたしが身代わりになってあげたんだからね!』と、ナツをこちらの世界に追い返してくれたのでは、と思ってしまいました。


なんだかんだと、良い夫婦だったのかもしれない。


ミカンは自分の病気に気付いていて、子供を望めないことを分かっていたからナツを突き放し、去勢済み且つおとなしく臆病なレアの傍を選んだんじゃ・・・・・・。

そうだったらいいのにと、わたしは今でも思っています。


そうでなければ、ミカンの死が浮かばれない。

なによりミカンが死んだ理由が、病気という確固たる証拠があるにても、まだ空へ召されるには早すぎる。

未だミカンの死を受け入れきれていない、ただそれだけかも知れません。


ナツは現在も元気に生きています。

今年での秋で、十七歳になるはずです。

どうかミカンの分も長生きして、いずれは天に召されてしまった時、天国でちゃんと二匹が結ばれたらな。


そう思う出来事でした。


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わたし。 ふ菓子のふうちゃん @fuka__0813

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