第02話 だったら捨てちゃえばいいのに

「——と、まあ、そういうわけで、今日の俺は暇じゃあない。いますぐネカフェに行きたい。個室タイプの」


 授業が終わり、机に広げたノートを片付けていると、隣に座っていたようが「今日暇?」と突然聞いてきたので、先日の事の成り行きをすべて説明して、自身が全然暇ではない旨を伝えた。


「わかったけど、そう言うことを普通女性の前で言わないと思うし、あなたが異常なんだとしても今後のためとか世間体を考えたら絶対に言わない方が良いと思うよ? 白瑠はくる君」


 まん丸眼鏡の向こう側のタレ目が、心底心配そうに俺を見つめた。その瞳は多分俺の未来すらも見つめているのだろう。


「陽妃の疑問に答えたら最終的には洗いざらい吐くことになるんだから仕方なくないか? それに嘘を吐いても仕方ないだろ? わかったか? じゃあ俺は行くぞ? いかせてくれ。ダブルミーニングで」


 俺はショルダーバッグを肩に掛け、立ち上がりざま歩き出した。


「正直なことは良いことだけどね。でもなんか違う気がする。と言うか、なんでわざわざネカフェに行くの?」


 ——おい、こいつ付いてくるぞ!?


 長い黒髪を肩の辺りでふわっふわっと躍らせながら。ズンズン近寄ってくる。ああ、良い匂いする。って、やめろ。マジでこの甘い匂いやめろ。歩けなくなったらどうするんだ。と言うか、まさかネカフェにまで同行する気じゃああるまいな。


「家に帰ったらスフィアが居るからだよ」

「使えないんでしょ? だったら捨てちゃえばいいのに」


 ため息を吐く彼女の顔には呆れの文字が張り付いていた。はらう部分の墨が掠れていてとても達筆である。


「いや、だってさ」

「かわいそうだとかって言うんでしょ、また」


 彼女が「また」を強調して言う。


「確か冷蔵庫のときもそうだったじゃあない」


 そうだ。

 冷蔵庫、うちではプラウと呼んでいるが、彼女を家に招き入れスイッチを入れたときのことをいまでも忘れない。

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