#4「犬人間」

 あの夜の後、俺はAちゃんから逃げ出した。

 急に仕事が忙しくなったと嘘をついて、毎日続いていた通話を断った。Aちゃんは俺を心配するメッセージを送ってくれたが全て無視している。VRChatの方にも全くログインしなくなり、俺は完全にAちゃんの前から姿を隠す。

 数週間経った今でも3日ほどのペースでAちゃんからメッセージが届いている。見ていないのでどんな内容かはわからない。

 こんなタイミングでAちゃんを避けることがあの子をどんな気持ちにさせるかなんて、わかっている。きっと俺に泣きついたことを後悔して、自分を責めるだろう。Aちゃんを傷つけたくない。だから会わなければいけない。連絡を返さないといけない。そういう気持ちはある。逃げたい。会いたい。セックスしたい。謝りたい。もう消えてほしい。愛してる。気持ちなんていくつもあって、そのどれもが本当だ。

 それなのに、どうしても身体の方が追いつかない。

 最初に通話を断った日は一日置いてまた明日話せばいいと思った。ここまで悩んでなんかいなかった。少し嫌だと思っただけだ。次の日も連絡が返せず、また明日返そうと気持ちを切り替えた。そうして一週間が過ぎて、Aちゃんのことを考えるのすら辛くなった。

 仕事と同じだ。先延ばしにするうちに、それを考えることそのものが苦痛になる。Aちゃんは俺の中で仕事になってしまった。恋人になるはずだったのに。定期的に届くAちゃんからのメッセージの通知が俺を糾弾するもののように思える。同時にまだAちゃんとの繋がりは切れていないのだと安堵もする。

 だって、しょうがないだろ。

 就活に失敗したなんて言われても、俺にどうにかできるはずがない。寄りそおうとしたって、どうせ俺の薄っぺらさがAちゃんに露呈して嫌われるだけだ。俺の人生だって不確かなのに、誰かの人生のことまで想ってやる余裕なんかない。俺は現実から逃げ出してここまで来たのに、Aちゃんを通してそこへ戻るなんてごめんだ。

 Aちゃんのことを考えるほどに、俺は俺の人生について考えさせられる。不安なのは俺も同じだから。結局、俺は自分のことを考えてばかりだ。だからAちゃんに会えないし向き合えない。自分がかわいいんだ。もう死ねよ。死にたい。

 もっと自分が嫌いになる。

 俺はあんなに大切だと思っていたものを簡単に捨ててしまえた。俺の中でVRの恋がそこまで尊くなかったことの証拠だ。そうでなければ死にもの狂いでAちゃんに向き合って、絶対にその手を離さないはずなのだから。

 Aちゃん、ごめん。心の中で1000回くらい言ったら許されないかな。それで何もかもなかったことになって戻れないかな。どんなに謝っても本気だって伝わらないような気がして怖い。腹を切り裂いて心の内を証明できるならそうしたい。

 俺は、キミを嫌いになったわけじゃないんだ。


×   ×   ×


 一ヶ月以上が経って、緊急事態宣言が解除された。

 だからというわけではないが、今ならAちゃんに向き合える気がした。

 俺は覚悟を決めて、VRChatにメルヴィルとしてもう一度ログインする。そうしてAちゃんに会う。昨日俺から連絡して、今晩会う約束をした。

 俺たちの愛の巣となってくれた自粛要請はもうない。自分勝手だなんてことはわかっている。俺はAちゃんを振り回し、疲弊させている。いっそこのまま黙って消えればよかったのかもしれない。

 でも、やっぱり嫌だ。

 Aちゃんは出会ったころの眼帯の少女のアバターで俺に微笑んでくれる。

「変なこと言って、ごめんなさい。だからまた仲良くしてほしいです」

 そんな風に俺を気にかける言葉を言わせたかったわけじゃない。もうAちゃんに自分を癒してほしいなんて思わない。一緒にいる間は、全部の気持ちをAちゃんのためだけに使い切る。そう決めた。もう二度と離さない。傷つけた分の何倍も癒してみせる。嫌われることだって、もう怖がらない。

「Aちゃん、ごめんなさい。今回のことでAちゃんは何も悪くない。謝ることなんか何もない。傷つけておいてこんなこと言うの今さらだってわかってるけど、それでもごめんなさい」

「ううん、メルくんの方が何も悪くないんだよ」

 俺はせめて、少しでもAちゃんの気持ちを軽くしてあげたい。

「Aちゃんに聞いてほしいことがあるんだ」

「なに?」

 俺は自分に最後の一片だけ残った嫌われたくない気持ちを捨てる。

「僕も、無職なんだよ」

「でもメルくんは……」

 Aちゃんが何かを取り繕おうとする前にまくし立てる。

「僕にはやりたい仕事があったんだ。でもそれが嫌になって、何の成果を出さないで逃げ出した。色んな人が支えてくれたのに、それに背を向けてたくさん迷惑をかけた。父さんも母さんもそんなことになってるなんて知らないよ。だってバレたら怒られるじゃん。怒られたくないから黙ってるんだよね。

払わなきゃいけない金も払ってなくて、このままだと財産差し押さえにするぞって手紙も届いたんだよ。でも怖くなってそれ捨てちゃった。

それで今度はAちゃんも傷つけた。クズなんだ。知られたくなかったよ。でもこれで、Aちゃんの気持ちを楽にできたりしないかな?

ダメな僕がダメなままでそばにいることで、下がいるんだって安心させてあげられないかな?

幻滅しただろうし、ドキドキもしてくれなくなるかもしれない。それでもいいから、Aちゃんには安心して眠れるようになってほしいんだ」

 俺は息切れしながらも言い終える。Aちゃんは俺の言葉を全て受け止めてくれた。

「メルくんは、ダメなんかじゃないですよ」

 Aちゃんが言葉でなんと言おうとどうでもいい。この事実を知ったことでAちゃんの心は楽になっているのか。それだけが大事だ。確かめる術はない。俺が言いたいことを押し付けているだけになってしまっている。でも、これが俺にできる最善だと信じる。

「まず、メルくんはかわいいです。だからそばにいるだけで癒されちゃいます」

 Aちゃんは俺を撫でてくれる。俺、かわいくてよかった。

 かわいくなることに興味なんかなかった。ただVRセックスができればよかった。でも、かわいい姿を見せることで好きな人を喜ばせてあげられるなら、俺はもっとかわいくなりたい。このアバターを使っていてよかったと本当に思えた。この販売3Dモデルを作ってくれた人に感謝の気持ちが湧いてくる。

 俺はキミのためにこそVRショタでいたい。

「それに、メルくんとえっちするの、すごく気持ちいいんです」

「いつも僕がイってるだけで、ごめん」

「セックスして気持ちいいから、不安な気持ちも受け止めてほしくなったんだよ」

 ああ、そっか。こんなこと、言われないとわからない俺はなんてバカなんだろう。

 最初はただヤるだけだった俺たち。しかもVRの中のセックスごっこ遊び。ただVRを被ってオナニーしているだけと言われればそれまでだ。

 でも、俺とAちゃんはVRセックスを重ねた上でここまで来れた。VRセックスが気持ちよくできる相手という信頼の上で、それ以上を求めたいとお互いに思い合えている。

 性欲から生まれた絆。

 たとえ世界中の誰になんと言われようと、俺たちの間のそれだけは嘘じゃない。

 その晩、Aちゃんは俺にたくさん愚痴を言ってくれた。俺だって必死にやってんだよこんチクショーって感じ。そんなAちゃんを見るのは始めてだった。

 その晩はVRセックスをしなかった代わりに、Aちゃんから色んな話を聞かせてもらった。

 そうしてまた何日も一緒に過ごす。たくさん話をする。一週間ほどして、Aちゃんは夜勤のバイトを始めた。まずはできることから始めようっていう小さな決断。面接の前日にはがんばれって言って、採用が決まった日はお祝いのデートをした。今では俺がいってらっしゃいを言う側になっている。

 Aちゃんはよくバイトの愚痴を言う。それを聞いてあげるのが俺の愛だ。最近のAちゃんからは昔のしおらしさが消えて、いい意味で肩の力が抜けているように感じる。

「ごめん、メルくんに頼っちゃってるね」

「それでいいし、それが嬉しい」

「またお姉ちゃんしましょうよ」

「どしたの、急に?」

「メルくんも甘えさせてあげたいんです!」

「僕はもう大丈夫だよ」

 Aちゃんにそれを求めるのはもうやめた。欲望を押し付けるのではなく愛を与えたい。

 Aちゃんは笑顔のアニメーションオーバーライドを表示したままだが、少しだけ残念そうだ。あの晩から、俺たちは一度もVRセックスをしていない。

「じゃあ、そろそろ夜勤に行きますね」

「俺も仕事の原稿、進めるよ」

「うん。がんばってね、メルくん」

「いってらっしゃい、Aちゃん」

 あのショタチンポを、俺はまだ一度も挿入していない。


×   ×   ×


「ワンワン! バフゥー! ウウウゥ〜!」

 俺は犬の鳴き真似をしながらはちゃめちゃにシコる。シコシコシコ!

 今の俺は犬そのものだ。HMD越しの目の前にはオマンコの形がくっきりと浮かぶどエロいパンツがあった。

「アウー! ウウゥァ〜! クゥ〜ン!」

 俺は悲しそうに鳴きながらオマンコの先にベロを近づけて許しを請う。VRおパンツ舐めたいワン。ワンワン。

「コラッ、ワンちゃん! ペロペロしちゃダメでしょ!」

「クゥ〜ン……」

 Bさんに叱られて落ち込んじゃうがシコる手は止めないぜ。シコシコシコ!

 Bさんは俺がAちゃんから逃げていた間に出会った美少女男性だ。

 エロくておっぱいがデカくて激シコなパンツを履いている美少女アバターで最高。ボイチェン使ってて声も超スケベ。性格はよく知らない。

 ここは公園にあるような公衆トイレのワールドで、俺はそこでBさんの股に頭を突っ込んでドエロいパンツを目一杯近づけて見抜きさせてもらっている。もう何十回目かもわからない。

「シコシコなら、いっぱいしていいんだからね」

「ワンワンワ〜ン! フヌゥ〜ン! キャインキャイン!」

 嬉しいワン。思わず鳴き声も上ずっちゃう。シコシコシコ!

 ちなみにこのアカウントはメルヴィルでもなければその前に使っていたアカウントでもない。Aちゃんから逃げていた期間に作った新しいアカウントだ。メルヴィルでVRCに入ればAちゃんにフレンドリストから見つかってしまう。でもVRセックスしてえ。そこで作った新しい3つ目のアカウントがこれだった。

 裏の顔の、裏の顔の、裏の顔。メルヴィルが逃げ続けて落ちた底だと思っていたが、この穴はどうやらまだまだ深いらしい。VRの未来や可能性は無限大なのだと見抜きで痛感する。

 ちなみに今使っているアバターは適当に拾ってきた子犬の3Dモデルだ。もはや人間ですらないしチンポも付いていない。巨根とかショタチンポとか気にしてたのバカみてえ〜。

 なんか色々ムリすぎて、ワンちゃんになっちゃった!

 この先、ワンちゃんの先の景色に至ることもあるのだろうか。

 俺は今、犬になって美少女のスカートの下を這っている。ここは俺の距離だ。そして現実ではシコシコシコ!

「ウウウゥゥ〜〜〜〜!」

「うんうん、気持ちいい?」

「ワンワ〜ン!」

 気持ちいいワン。VRセックスなんて面倒なこと、なんで今までやっていたのか思い出せない。ワンちゃんになってVRおパンツ見抜きこそ至高。なんかセックスとかダルくなっちゃったんだワン。射精できればそれでいい。

 Aちゃんに仕事をすると嘘をついてログアウトしてから、アカウントを切り替えてこうして見抜きをさせてもらう。それが習慣になっていた。仕事なんてあるわけねーじゃん。ワンちゃんなので国保もまだ払えてない。

「こんなに惨めなワンちゃんになっちゃって、恥ずかしいね〜」

「フッ! フヘッ! グゥゥゥ〜!」

 Bさんのエロパンツが目の前で揺れる。あと少しで鼻先に触れそうというところで顔を近づけると、それはまたすぐ離れてしまう。人生みたいだ。大切なものはいつだって簡単には掴めない。見抜き人生訓。パンツに手を伸ばしたいが今の俺は四足歩行だ。

 俺はAちゃんから逃げ続ける間にBさんに何度も見抜きさせてもらい、そのおかげでもう一度あの子に会う決心ができた。今の俺にはこうして癒される場所がある。だからAちゃんに優しくできる。Aちゃんを支えることがどれだけ「苦行」でも、おパンツ見抜きは全てを忘れさせてくれる。お姉ちゃんはもういらない。救済はワンちゃんおパンツ見抜きにしかないのだ。

 Aちゃんのそばにいるだけで自分も何かしなければいけないと思わせられるのが、俺にはどうしても耐えられない。もうAちゃんの相手なんかしていられないと思ったことも何度だってある。あの子は何も悪くない。俺が全て面倒になってしまっただけ。でも、あんな罪悪感を背負わされて疲弊するのも嫌だ。俺はどこにもいけない。

「ワンワンワンワンワン!」

 俺は自分の中の不安をかき消すようにワンワン&シコシコする。シコシコシコ!

「ワンちゃん、もうイキそう?」

 Bさんは歩く見抜き専用パンツのようなものなので、もちろん恋愛感情なんかない。ただただ感謝と畏敬だけがある。拾ったエロ本に恋しないのと同じだワン。もしこの人で見抜きできなくなっても、また新しいエロ本を探せばいい。時間はかかるだろうが、探せばいないことはないだろう。

「フゥー! フゥゥゥーッ! ワンワーンッ!」

 イキそう。その4文字を伝えることすら許されない。でも大丈夫。俺はこの一ヶ月で犬の真似にだって想いは込められることを知った。きっと伝わる。

「そっか、じゃあ特別ご褒美あげちゃうね」

 Bさんのパンツが非表示になってオマンコが露わになる。うっひょ〜。マンコ最高。マンコなんてシコれればなんでも同じじゃんね。シコシコシコ! 俺はもう止まれない。

「ほらほら、オマンコ見ながらワンちゃんイっちゃえ!」

「ワンワンッ! ワンワンワンッ! ウウウゥゥアアアァァァーーーッ!」

 犬見抜き超きもちいいぃぃーーーっ!!

 あ、出るっっっ!!!


 終

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俺がVRChatで中身が男性の美少女とセックスした話♡ オタゴン @otagon_vr

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