短編集
大空 殻捨
第1編 麻薬
ひらきっぱなしの玄関を通り、下駄箱の暗がりを開ける。腐った卵のような匂いで頭の中をかき乱されて、そのうちに自分を疑ってしまっていた。
「おはよう!」
背後を振り返ると長い髪を揺らしながら僕とは反対の靴箱を向いている彼女の姿があった。自分が声を返したのもわからないくらいに、下駄箱の周りはいつの間にか騒がしくなって、彼女の姿は見えなくなっていた。
「おはよう!!」
時々彼女の顔を見るが、その顔は頭の中で勝手に可愛く見えるようになっていた。そんな思いにふけながら、早足で階段をかける。俺の教室は二階にあるこの階段から一番近い部屋だ。階段を登るにつれて初めに何を考えているのかわからなくなって、いつの間にか授業の気怠さが俺の首を絞めている。
胡散臭さが気怠さを覆うようなその雰囲気は、人の会話を見ていると何故か苛つくほどだった。適当に生きていかないといけないくらいの場所だってことはここにいる人間が一番分かっている。それでも何故か虫唾が走る。あと二年もこれが続くと思うと、適当に生きて行く道しかないように感じて、どうしようもないからかもしれない。
戸を開けて教室に入り、自分の席に着く。カラオケで歌うのも友達と話すのも楽しいのは分かるけど、流石にもう飽きたと最近思い始めた。これじゃあ見た目の違う同じ日か、見た目の同じ違う日かの差しか無い。もっと刺激が欲しい、今日を忘れても明日を忘れてしまうことのないような。
「出席取るぞ」
無表情で、自分が見られる時だけ少しパリッとする男性教師、そっちの方が楽だろうが、疲れるだろうに。こんな大人数相手だったらまともじゃいられないか、そうやってひとは妥協して、現実にあまえ、現実は現実であり続ける。
短編集 大空 殻捨 @syoukk
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