第5話 魔剣
「良い機会ですので、親睦を深めましょう」
ちくしょう、相乗り三昧はどこに行った。
なんで姫様と馬車に揺られていないといけない。
姫様の隣に座っている侍女が親の仇を見る目で
すいません、
「えー、私めでよろしければ話し相手を
「聞きたいのはあなたは何でそんなに
これはハゲが進行している俺をディスっているのか。
我慢しますよ。
窓際は何言われても我慢です。
「えー、加齢による特有の現象でしょうか」
「なるほど見た目より歳をとっていらっしゃる」
これは若いと言われているのかな。
おっさん照れちゃうよ。
落として上げる。
なるほど貴族ともなれば会話のテクニックも違う。
「ええ、よく言われます」
見得を張っちゃったよ。
「魔法使いになったのはどのような経緯ですか」
また落としが来たよ。
これは俺が三十年以上、童貞なのをディスっているのに違いない。
「三十年の修行の賜物です」
「そんなに修行されたのですね。今も修行はなされているのですか」
現在も継続中だよ。ちくしょう。
「あと少しで天使になれます」
「あなたは心が清らな方なのですね。素晴らしいわ」
落として上げる作戦発動か。
俺がピュアだって言いたいのだな。
もういいや何とでも言ってくれ。
「それだけが取り得です」
「芸も一つ極めればご立派ですよ」
これはディスられているのか。
それとも
どっちだ。
話題を転換しちゃうぞ。
「本物の魔法って難しいのでしょうね」
「謙虚な方ですね自分の魔法が偽物だなんて」
「すいません、無学なもので」
「たぶん私の魔法が偽物なのでしょうけど。お見せしますわ。【イグニッション】」
ピンポン玉ぐらいの火の玉が浮かぶ。
おー、魔法だ。
俺もやっちゃう。
魔法使いは魔法使いになる。
こうかな。
「【イグニッション】。あわわ」
バスケットボールほどの火の玉が浮かんだ。
火の玉は段々大きくなる。
いかん、馬車に燃え移ると賠償、待ったなしだ。
ろうそくの芯を摘まむ感覚だ。
指先がちょっとひりひりするだけさ。
急いでやれば熱くないはず。
俺は慌てて火球の中心に手を入れて握りつぶした。
「今、魔法を消したのは」
「すいません。たぶん劣化だと思います。炎も劣化するんですね。驚きだ。全然熱くなかった」
「劣化。あれが劣化。いいえ、違うわ。きっと魔法の深遠に属する何かよ」
シーラの
この子もストレス溜まっているのかな。
貴族なんてストレスまっしぐらなんだろうな。
あー、やだやだ。
おっさんはヒモでいいや。
ヒモに永久就職。
「おや、馬車が停まったようです」
「姫様、賊です」
俺はここで見学しておこうかな。
馬車の扉がノックされて、聞き覚えがある声が聞こえた。
「馬鹿者、早く出て来い。賊だ。護衛だろう」
「もー、エメラルさん。姫様との会話が弾んでいたのに」
しょうがないですね。
応援ぐらいしか出来ないですけど、外に出ますか。
俺が馬車から出ると賊と護衛達がにらみ合っているところだった。
馬車のドアを閉めようとすると、キンと澄んだ音がした。
「何、何で切れない。使い手によってはミスリルも断てるはずだ」
目の前が歪んだと思うと真っ黒な剣を持った男が現れた。
「もう一度だ。お前を排除して姫の命を頂戴する」
男は消えて、キンキンキンと澄んだ音が何回もする。
そしてボキっと音がして男再び姿を現した。
「お前なんだ。何なんだ。ありえない魔剣が折れるなんて」
劣化さんいつの間に仕事したんだ。
そう思った時、俺の服がバラバラになった。
いやーん、エッチ。
ズボンは無事か。
良かった。
劣化さん遠隔で作用するようになったのだな。
ついでに服まで劣化させなくても良いだろうに。
「ちくしょう。覚えてろ。お前の顔は覚えた」
「すいません。何か怒らせたみたいで。ちなみに、魔剣は弁償できません。保険を使ってください。ありゃ居ないや」
周りを見回すと他の賊達も撤収していく。
エメラルが折れた魔剣を手にとった。
「これ、えげつないほど呪いが掛かっていたな。生命力を吸い取る呪い。人間を切れば切るほど切れ味が上がる呪い。他にも幾つか読み取れる。だが刃こぼれして、刃も完全に潰れている。まるでオリハルコンを切ったみたいだ」
またもエメラルさんがぶつぶつ言っている。
「助かりました」
護衛の隊長が俺にお礼を言って来た。
「いやそれほどでも」
「扉の前で身体をはるなんて、なかなかできません」
「はっはっはっくしょん」
くしゃみの瞬間に目をつぶってしまった。
とっさに横を向いたから、
メキメキと音がして樹が倒れてギャっと声がする。
どうやら、後ろに隠れていた賊を押しつぶしたようだ。
おっ、こんどは豪運さんの仕事か。
みんなの俺を見る目がおかしい。
それぐらいで怒らなくても。
「すいませんでした」
とりあえず、謝っておけば大丈夫。
それよりも、誰か上着プリーズ。
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