最終話 邪神

 ふぅ、学園に着きました。

 上着はもちろん貰えましたよ。

 汗臭いのをね。

 いくら、おっさんでもこの仕打ちはどうかと思う今日この頃。

 現在、学園の中を団体さんで移動中です。

 俺は着替えたいのだけど、寮に送り届けるまでが任務だそうで。


 姫様は教員らしき人と話をした後に一緒に大部屋へ入って行った。

 俺、俺はもちろん後に続いたよ。

 部屋の中央にはでっかい水晶が安置されていた。

 なんかワクワクしてきたですぞ。


 姫様が中央の水晶に触る。

 546の数字が空中に浮かんだ。


「また、数値が上がりましたね。さすが、天才と言われるだけあって素晴らしい知力です」

「それほどでもありません。ここに来る途中で深遠をみまして、少し自信をなくしていたところです」

「それはまた、興味深いお話ですね」


 知力を測る道具ですと。

 是非やってみたいですな。

 姫様は教員らしき人と話すのに夢中で水晶からはみんな意識が外れている。

 チャーンス。


 ぽっちとな。

 空中に『はははは』の文字が浮かび上がった。

 そんな気はしてたよ。

 俺の知力なんて笑いものさ。


 水晶が光を発し始めた。

 やばい、劣化さんの仕業か。

 俺は触ってない。

 触ってないったらない。


 光に注意が集まったので俺はとっさに護衛集団の中にまぎれた。

 光は段々と強くなり仕舞いには一際強い光を発する。

 そして、パリンと音を立てて割れた。


 知ーらないっと。


 魔法陣が空中に浮かんで、魔法陣から蝙蝠の翼を持つ人間が出てくる。

 警察か。

 器物損壊の現行犯で逮捕か。


「お前は魔族」

「ただの魔族ではない。四天王の一人だ。間違えるな」

「目的は何だ」

「ふん、知力測定の魔道具が壊れたので来て見たがどいつも大した事はなさそうだ。知ってるか。知力測定の魔道具は邪神様の妨げになる知恵者を殺すため魔族がばら撒いた」

「なんだと、それを話したということは」

「隊長、部屋から出られません」


「結界で助けを呼べないようにしてある。全員殺して、魔道具の暴走事故に見せかけるつもりだ」

「くそう」

「ちなみに魔道具は知力が1000以上いくと壊れる設定だ。誰が壊した」


 顔を見合わせる俺達。


「まあいい、その知力で俺を楽しませろ」


 その時、プーンと蚊の羽音が耳元でした。

 こなくそ。

 俺は蚊を手で握った。

 捕まえたぞ。

 ここでぎゅっと握ればお前は死ぬ。

 ぎゅっと握ってからゆっくりと手を開く。

 蚊は元気に飛び立った。

 オーノー、指の隙間に入ったか。


 蚊を目で追うと蚊は魔族のほっぺたにとまった。


「動かないで、じっとして」

「なんだ、いいだろう。最初の一発は許してやる」


 俺は平手で魔族のほっぺを叩いた。

 とった。

 確かな手ごたえ。

 もの凄い勢いで壁に叩きつけられる魔族。

 壁に放射線状にヒビが入る。

 ホワッツ、何が起こった。


 目の前を蚊が悠々と飛んで行く。

 蚊が魔族を突き飛ばしたのか。

 恐るべし異世界の蚊。


「ふっ、一撃は許したが大したものだ。少しダメージになったぞ」


 蚊のやろう目の前を悠々飛びやがって。

 俺は蚊、目掛けて両手をおもいっきり打ち合わせた。


「むっ、見事だ。衝撃波の魔法か。早すぎて見えなかったぞ」


 魔族が真っ二つになって別れていって、後ろの壁も粉々になる。

 あれ、魔族さんはなんで真っ二つになったんだ。

 蚊はというと俺が手を開くと両手の隙間から飛び去って行く。

 ああ、蚊が魔法を使ったんだな目測を誤って魔族さんが巻き添えに。

 そうに違いない。

 でなければ。

 三度も攻撃を食らって平気な訳がない。

 たぶん蚊の神様が化けているに違いない。


 部屋一杯に魔法陣が広がる。

 こんどはなんだ。


 魔法陣から現れたのは紫の肌の捻じくれ曲がった角をつけた人物とドラゴンだった。


「四天王を倒したのは天晴れだと言っておく【バインド】」

「姫様、結界が解けました。今の内に避難して下さい」


 あれ、みんな行っちゃうの。

 俺を置いていかないで。

 俺の足は床に張り付いて動かない。

 ドラゴンは俺をみると炎を吐き出した。


 劣化さーん仕事ですよ。

 劣化さんは仕事をしてくれたようだドラゴンにあぶられても少しも熱くない。

 でも汗臭い服は灰になってしまった。


 ドラゴンはガゥと鳴き腹を見せた。

 おー、触ってもいいのか。

 爬虫類もひんやりして気持ち良いんだよな。


「ドラゴンもしょせんはペット。強敵に媚びるとはな。目障りだ死ね」


 角の人物はドラゴンを蹴飛ばした。

 天井にバウンドしてドラゴンは息絶え絶えに。


 こいつ、爬虫類様を足蹴あしげにしやがった。

 許さん。おっさんは怒ったぞ。


「ひっ、その魔力はなんだ。放出をやめろ」


 おっさんは何もしていなけど苦しがっている。

 ちょっと可哀相かな。


「痛いの痛いの飛んでけー」

「魔力をこちらに向けるな。ひい、もう耐えられん」


 角の生えた奴は塵になった。

 劣化さん鬼畜だな。

 劣化さんには逆らわない事にしよう。

 そうだ。爬虫類様は。


「今、治してやるからな【ヒール】」


 魔法陣が現れてドラゴンを癒していく。

 俺は無事を確認してから、触ってやった。

 おー、ひんやりして気持ち良い。


「おい、邪神はどうした」

「エメラルさん、角が生えたのなら、劣化さんの怒りに触れて劣化しました。それより服を早く下さい」

「こいつ、自分の実力が分かってないのか。邪神の戦闘力は噂では9999。こいつそれを上回ったのか。知らせたら逆効果になりそうだ」


 またも呟きだ。

 それよりも早く服を。




 後の書物にはこう記されている。


 天使ハジメ。

 死霊化から一転、清い心で天使となる。

 天使となったハジメは邪神を一蹴。

 ハジメに天使だと知らせると恥ずかしさのあまり溶けてなくなると言われている。

 更に妖精になったとの説もある。


-完-

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る