第114話 子が子なら親も親

「ですからっ! 今は大学生だから、少し夜遅くなるのはあるでしょうが。彼女が高校生の時、完全に放置していたでしょう。危ないと思いませんか」


 最初の緊張さえなくなれば、立て板に水のように苦情が出てくる。本間は大臣の机をキャベツの千切りするようにチョップしていた。

 大臣の方も余裕が出てきたのか、本間に対して厳しい顏ではない。


「そこはボディーガードを張りつかせていたので大丈夫だ」


「ボディーガード……」


「みかんが中学生の時にやめるよう言われたが、心配なので隠密に護衛させている」


「今まで心配していたのはなんなんだ……」


 脱力して、肩が下がる。

 副流煙を気にしてタバコを止めたり、いつまでもついてくるから夜遅くならないようにしたり、問題があり呼び出されたら身元を引き受けにいったり。

 護衛されていれば、気にしなくて良かったのだ。

 というより、それまでの行動が父親にバレているということである。

 ストーカーされていたことも……。本間をつけているみかんの背後に、黒服の集団がいたかと思うとそれはそれでゾッとする。(あくまでイメージである)


「あのー。娘さんが三十代男性をつけまわしていたのを知っていたということですよね。止めようと思わなかったのですか?」


「それを言ったら、なぜ知っているのかを話さないといけないだろう。腹いせに、その三十代男性の仕事を手をまわして一割ほど増やしたりした」


「微妙かつ分かりにくく、きっちり効果的な嫌がらせをやめてください」


 大臣も当たり前のようにやりました的な態度をとらないで欲しい。ここまでせせこましいと子供みたいに見えてくる。


「にしても、娘さんのことを大切に思われていらっしゃるようで。本人に隠れて護衛させるのはどうかと思いますが」


「ああ、もちろんだ」


「にしては、記者会見では他人行儀で事務的でしたけど」


「それはそうだろうっ!」

 大臣がにわかに立ち上がる。

「我が娘いえども、文部科学省の敵。手加減することは、相手にも失礼だ。事務的に対応し、国民に未完部のことについて興味をもたせない。それが肝要だ」


「はぁ」


 急に発言に熱を帯びてくる大臣についていけない。


「覇気がないっ」

「は、はいっ」


 思わず背筋を伸ばす。伸ばした後、時間差でおかしいなと思う。


「家でも論戦をし、一切容赦はしない。この頃は執事も加わって来た」


「その果てがあれ……」

 蟲毒のように濃密になったのを外に出さないで欲しい。本当に。


「我が家の家訓は『常に全力で』だ!」


 この人、間違いない。みかんの父親だ。

 こんな伏魔殿に来るんじゃなかった。

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