第107話 穴があったら入りたい時に、サメの寝袋は有用
本間と都道のビデオカメラの綱引きは、本間の勝利に終わった。だが、妹川は見ていた。都道が小さなメモリーカードを手のひらに納めるのを。
(あーあ)
本間がビデオカメラを操作し、「なんだ。実は録画されてなかったじゃないか」と都道に返却した。
(哀れだ)
と思いつつも、都道から味玉と砂肝という賄賂をもらった身としては言えない。とても美味しかった。
姉歯は気づいたかどうかはわからないが、気づいたとしてもネタ的に美味しいから言わない。
「ん? 俺の味玉と砂ずりがない」
本間が空の皿を傾ける。
「酔っているから記憶が曖昧なんだよ。さっき食べたじゃないか」
さらっと都道が嘘をつく。あまりにも自然過ぎて、詐欺師じゃないかとも思う。
「んー?」
本間が腕を組んで、皿を凝視している。食べた記憶をさらっているのだろう。その記憶は出てくることはない。
(オレが食べました)
心の中にだけ告白しておく。
「そうかなぁ」
まだ未成年で酒は飲めない立場だが、酔っぱらいは損することがあるとよくわかった。
****
「ただーいまー」
酔っぱらい特有の明るいテンションで、本間は帰宅を告げる。足元はふらついてはいないものの、ゆっくりと。
「おかえりなさい」
迎える夏美も上機嫌だった。後ろに何かを隠しながら、少し恥ずかしそうにしている。
「姉さん、良いことでもあったん?」
理由はわからずともいいことだ、と思っている本間はニコニコと返す。
夏美もニコニコとして、後ろ手でスマホの再生ボタンを押した。
『俺の姉さんはかわいい』
スマホから自身の声を聞いた瞬間、本間はスライディングしサメの寝袋にインした。もう靴下しか表に出ていない。
『姉からのパシリはご褒美』
大きなサメが本間を飲み込んだまま、左右にゴロゴロ転がる。
『お姉さんが好きなんですね』
『ハイッ!』
打ち上がった魚のように、サメがびたんびたん跳ねた。
後に都道から『反応はどうだった?』と訊かれた夏美は『サメが転がったり、跳ねたりするようになった』と答えた。
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10月分は短くてごめんなさい。次回はまた11月です。
今度こそ、『物語撲滅委員会、ただいま会員募集中』を公開したいと思ってます。
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