第95話 すべてはRTAで解決する

 悪役令嬢イザベラ、ヒロインのマリー、本間で作戦会議となった。

 本間は異世界転移して来たサラリーマンで、ひまなので手伝っているということになっている。(仕事だが)

 ヒロインが転校して来て、卒業するまでの三か月がゲームの内容らしい。


「元の乙女ゲームの話なんだが。すべてのフラグを折って、学園から卒業するというのは可能なのか?」


 本間の問いに、悪役令嬢が扇子を広げてニヤリと笑った。


「それは12分でクリアできますわ。平日は学園に着き次第、医務室に行って仮眠をとり、授業が終わったら誰にも会うことなく帰宅。休日は家にこもって外に出ず、訪問があっても居留守を使う。で、ノーマルエンド『一人寂しく』が出ますわ」

「どこからツッコめばいいかわからない」


 何が楽しくてそういったプレイをしたのかは知らないが、人の自由である。


「私はやります! 一生監禁より、三か月そっち方がマシです」

「そ、そうか」


 どうやら、元の乙女ゲームはヒロインにトラウマを残したらしい。


「授業の内容等は持ってきてあげるから、存分に引きこもって大丈夫ですわ」

「悪役令嬢さん!」


 友情エンドが発生する気がする。

 それはそれとして。 


「悪役令嬢のバッドエンドを回避するについてだが……。ヒロインが引きこもって誰にも会わないなら、悪役令嬢側に何もないのでは?」


 乙女ゲームの悪役令嬢は、ヒロインをイジメたり、権力を使ってヒロインと攻略対象の仲を邪魔したりするものだが。


「もしかして……何もないから、悪役令嬢のことをまったく覚えていなかったのでは……」


 悪役令嬢はハッと息を飲む。


「きっと、そうですわ。全部スキップしていたかもしれませんわ。攻略対象を落として通常クリアでも、RTAのためにフラグが出るところだけ回収し、後は医務室と引きこもりだったですもの。ラストイベントの舞踏会も欠席しても好感度は下がらないから」


「通常クリアとは……。悪役令嬢とは……。舞踏会とは……」


 頭が痛くなってきたが、すべては作者が悪い。

 ツッコミどころは置いておいて、終わりへの道筋は見えてきたような気がする。


「悪役令嬢の婚約はそのままでいいのか?」


「任せておきなさい。スタッフロールへ飛べる最新のバグ技を使ってやりますわ」


 おーっほほほほほ、と悪役令嬢が笑うが、ゲーム世界ではないのでバグ技を使ってどうにかなるわけでもない。

 しかし、放っておこう。

 悪役令嬢と王子なら、王子もヤンデレ化していない。


 ヒロインは引きこもり。悪役令嬢はヒロインの手助け。

 本間は簡単な内容を文章にする。

 ストーリーの出来としてどうかという疑問はあるが、終わればいいのである。物語終了課は、小説家ではなく公務員だ。


 

 本間が現実世界に戻ってきた後、終わった話を読み返すと……。

 悪役令嬢が王子の乳首を連打して、婚約破棄になっていた。


「バグ技ってそういうこと……」


 よくわからない妙な納得をして、本間はノートを閉じた。

 

 

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