第94話 創作でヤンデレは楽しめるが、目の前にいるとコワイ
学園の前。
もろもろの背景は、悪役令嬢が覚えていないので割愛。悪役令嬢、ヒロイン、攻略対象らも学園に通っているとのこと。
本間は悪役令嬢の執事として、そばにいることにした。物語の原本がないため、仕方なくだ。
「攻略対象は、髪の色ですぐわかるのですわ」
学園への道で歩きながら、悪役令嬢イザベラは言う。
「ほー」
「熱血なレッド、クールなブルー、癒しのグリーン、中二病なブラック、頭の中がピンク、イエロー以外はファイブカラーレンジャーと同じですわ。カレー好きなイエローがゴールドになって王子。カレーが王子様と覚えたらいいですわ」
「カレーが王子様……」
あまりツッコんではいけない気がする。
その代わり、重要なことを訊く。
「それぞれの名前は?」
「覚えてないわ。カタカナは苦手ですの。最初の強制イベントは顔見せのためか、飛ばせないのですわ。何回も何回も見たのですけど」
「うーん」
名前をわかった方が、書いて物語に反映させやすいのだが。そこは主人公に期待しよう。
「あと、王子はわたくしの婚約者」
「あのさ、それは前世の記憶じゃなくて、今世の記憶の問題」
「前世の記憶を思い出した途端、親や使用人に記憶喪失と言われるのですわ。逆ですのに」
これも作者の所為だろうか。おそらく、そうだろう。
「あれがヒロインのマリーですわ」
イザベラは、前を行く茶髪の女の子を扇子で指し示した。
女の子は緊張してか周りを慎重にうかがいながら、歩いている。観察していると、前から来た金髪の男を大きくかわしていた。
かと思うと、横から来た同じ男をまたかわす。
「ふっ、最初のイベントはスキップできないからといって、避けているわね。強制イベントだから、タイムを縮めるためにはのらないといけないのですわ」
「誰もがRTAをしていると思ったら大間違いだぞ」
元の物語は知らないが、ヒロインのマリーも転生してきたことにした。
ゲームの内容がわからなくとも、マリーがゲームをプレイしたことがある(普通に)と書いた。
物語にそっていれば、反映されているはずだ。
そして、行動からいって効果が出ている。彼女なりにこのゲームをなんとかしようとしている。
「このままでは、いつまでたっても始まりませんわ」
イザベラはそう言ってマリーへ走り寄り、そのままタックルした。
「きゃっ」
小さな叫び声を上げて、マリーは金髪の男へと倒れ込む。金髪の男はマリーが地面に手をつく前に抱え起こした。
「大丈夫か。僕の婚約者が迷惑かけてすまない」
婚約者ということは、イザベラということで。ということは、この人はイエローもといゴールドの王子様。
「いえ。お気になさらず」
逃げ腰になったマリーの肩を、イザベラが後ろからつかむ。
「攻略対象の紹介が始まるわよ。さあ、選びなさい。どれを選んでも、一番近道でベストなやり方を教えてあげるわ」
「え、え?」
戸惑っているマリーの前で、攻略対象のイケメンたちが寄ってきて紹介を含めたセリフをはいていく。
本間はちょっと離れたところから、名前等をメモしていた。
イザベラからの事前情報どおりで覚えやすい。
イケメンらが散っていっていった後、その場に残ったマリーとイザベラの元へと駆け寄った。
「さあさあ、どなたにされますの? わたくしが近道で死亡を回避するルートを教えて差し上げますわ」
悪役令嬢のイザベラがそう言うが、彼女は選択肢を右とか上とかでしか覚えていない。
「私は誰も選びません! 普通の人がいいです!」
マリーは涙声で叫び、わっと顔を覆った。
「それはどうしてなのかな」
悪い予感がしないでもなかったが、本間は訊いた。元のゲームを知っているマリーがそういうということは……。
「だって、好感度を上げてしまうとヤンデレや強引俺様、愛が重い人ばかりなんですものっ!! 一つ間違うと監禁エンドになるのいやああああ!!」
「……」
乙女ゲームって、そういうゲームだっただろうか。
本間はやったことはないが、少なくとも一般的な小説に出てくる乙女ゲームと違う気がする。
「ゲームだから面白いのに。現実にそういう目に遭うのは怖すぎる」
「それは……」
「先程の王子がヤンデレですよ! 位置特定の魔法を使って、ずっとついて来たり、偶然を装ってあらゆるところに顔を出すんですよ。部屋には私の絵画がギッシリ。恋のライバルと見るや国家権力を使って処分。コワくありませんか!?」
「こ、こわいね……」
訊いたのは自分だが、なぜ自分が責め立てられているだろう。
「もう誰にも君の美しい姿を見せたくないとか言って、ナチュラルに軟禁ですよ。信じられない!」
「……」
角戸はこの物語を書く前に、資料として乙女ゲームをプレイしたと言っていたが……。
色々と間違っていたに違いない。
「わたくし、悪役令嬢でよかったですわ」
イザベラは他人事のように言うが、その王子が婚約者ということは頭から抜けている。
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