第十三章 ラブコメの主人公が鈍感なのは、話を長引かせたい作者の都合2
第88話 どうしても感想を聞きたい作者と、あまり感想を言いたくない読者
困ったことになった。
本間は絶望のあまり脱力し、現実逃避しそうな意識をなんとか維持する。突っ立ったままがきつい。
目の前には都道からの荷物。フタは開いていて、中身が見えている。
『私の弟がこんなにもかわいい』の本が二冊。
おねショタの姉弟ラブコメである。
ソファーには倒れている姉。
起きた時、なぜか姉が上にのっかかっていた。
やわらかさとあたたかさで思わず体も心臓も飛び上がりそうになったものの、鉄の意思で姉の肩を支えて起こさずに脱出した。
深呼吸して、跳ねまくっている心臓の鼓動を平常に戻すのが大変だった。
状況からして、中身を見られている。姉は眠たそうにしていなかったので、本を見て失神してしまったのではないだろうか。
同居している弟が、姉弟ものの恋愛本を持っているというだけでも気持ち悪いだろう。
(すべて都道の所為にするか)
元をたどれば、すべて都道の所為である。
「う、ううん」
姉が身じろぎして上体を起こす。
本間はサッと段ボールのフタを閉じた。
「あ、姉さん。都道の嫌がらせに巻き込んでしまって、ごめん。本を見てショックを受けただろう。俺は興味ないんだが、都道が送ってきたものだから。この本はすぐに処分するから」
「え!?」
姉が驚いた顔をし、悲し気にうつむいた。
「大丈夫。俺はこの本を読まないから、どうか誤解しないで欲しい。信じて欲しい」
本間は、ゆっくりと姉を見て言う。
都道の感想文については、後日に外で本を買って読んで書けばいい。都道からの本は捨ててしまおう。
ここは姉からの信用を崩さないことが大切だ。
「読んで感想が欲しい」
姉のか細い声が聞こえた。
イタズラとはいえ、都道から自分に向けてとはいえ、姉には関係なかったのにひどいことだ。
「ああ、もちろん。読んで感想を……」
口に出したところで、脳みそがフリーズする。
言葉がきちんと頭に達しようとするところで、もやがかかる。
「ん?」
何か変なことを聞いた気がするし、まずいことを言ったような気がする。
「これ、私の友人が作者なの。だから、感想を聞いたら友人に言ってあげたいなと思って」
「んんん?」
頭の回転がうまくいっていない。回転するためのネジを回せるなら回したい。理解したところで絶望かもしれない。
「続がもちろんって言ってくれて良かったー」
姉が喜んでいる。姉の喜びは自分の喜びだ。嬉しい。嬉しいはずだ。
「ん?」
(おねショタで、姉弟のラブコメを読んだ弟の自分が、姉に感想を伝える? る?)
やっと頭の回線が繋がってしまった。わかってしまった。
「ああぁぁあああ?」
「楽しみ。きっと作者も嬉しがる」
「姉さん、その」
「なに?」
姉の顔は眩しいくらい笑顔だった。
ルンルン気分の姉に撤回などできるはずがない。
「いや、何でもない」
【どうしても感想を聞きたい作者と、あまり感想を言いたくない読者】
単純に考えよう。
姉は作者の友人だから、感想を欲しがっている。
おねショタとか、姉弟ラブコメとか、弟溺愛のこととか、実は姉弟は血が繋がってないこととか、そういった本の内容を気にしてはならない。姉が気にしてはいないはずだ。
作品は作品だ。
作品と現実をごっちゃにしてはいけない。
姉弟ラブコメを弟が読んだところで、現実とリンクしなければいい。
さらっと読んで無難な感想を伝えれば……。
と思っていた。
自室にこもって本を読んでいると姉が来る。
昔から姉はノックをせずに、自分がいない時でも勝手に部屋に入る人だった。小さい頃は自分の部屋という認識が薄かったのもある。今は本棚の本は好きにさせていたし、CDやDVDも共有みたいなものだ。
ジャージはとられて着られると困ったりするが。
それはともかくとして、姉が来る。
サッと本を隠して、別の本を読んだふりをしたり。素知らぬふりでベットの下に隠して寝ころんだりする。
扱いが完全にエロ本である。
だが、読んでいる最中を見られたくない。特に姉には。
「姉さん。姉さんは受験で忙しいんじゃあ?」
「大丈夫。ここで勉強するから」
と姉に机と椅子をとられてしまう。
ベッドにゴロゴロしていても、せっかくの休日がもったいない。
仕方ないとリビングに向かうも、姉がついてくる。ここまでだと、逆に心配になる。
「姉さん。どうしたの?」
「続が、例の本を読んでいるところが見たい」
「……」
(羞恥プレイか)
どこの世界に弟溺愛かつ、おねショタな姉弟ラブコメを姉に見られながら読むという弟がいるだろうか。いやいない。
「感想も気になって気になって、受験勉強も進まないの」
「うっ」
姉の人生がかかっている大学受験。その妨げに自分がなっていいものか。いいわけがない。
「読んでいるところが見たいな」
「ううっ」
「な」
姉につんと袖を引っぱられる。
期待の目が輝いていて、辛い。だが、かわいらしい。辛い。
「うううぅっ」
とてもとても都道を背負いぶん投げたい気分になった。(都道の身体能力が高いのでできない)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます