第14話 この星お化けにビビりすぎてちょっと可愛い
エーレの端にある簡素な住宅街。そこは所謂高級住宅街で、商売が上手く行った者、高名な魔法使いや実績高い冒険者が住むお金持ちの土地だ。
だからか、世帯自体は少ないのだが、その分大きな家が幅を取っており、人口は少ない。
そのさらに端に、森に囲まれた様な見た目の木造の家がじっと静かに佇んでいる。目的地の幽霊屋敷だ。屋敷というだけあってそれなりに大きい。
「うへー、でっかいなぁ。こんな家がたったの100デルで借りられるなんて夢みたいだよ! ねえホッシーもそう思わない?」
バッグの中で待機している星が小刻みに震えている。両橋の鋭角を器用に曲げ、恐らく目の部分である所を隠しながら、外に背を向けていた。
「う、う……ん」
どうも歯切れの悪い返事だ。何かに怖がっている印象を抱く。とりあえずその事は後回しだ。早速中に入らなければ。
高音の木の唸り声と共に扉を開く。
中に入ると左に直ぐ階段があり、ロフトの様な構造で、天井がとても高い。二階の手すりが玄関からも見え、奥行きのある作りになっている。
「ごめんくださいーい!」
当然、返事などある訳がないのだ。
「ふーん、ちょっとかび臭いけど良い所ね! 廊下も広いし部屋も沢山ありそうだし、住むには全く困らなさそうだ」
間取りだけで言ったら、独り身にしては大きすぎるくらいだ。だがそれが良い。今の家も広い方なので、慣れてると言えば慣れてる。
「二階にも上がってみますかな、ねえホッシー、もう出て来て良いよ」
バッグの中からゆらゆらとホッシーが出て来た。飛び方を見る限りだが、何か調子が悪そうだ。一体どうしたと言うのだろう。
「あ、エーフィーあのさ……本当にこの家に住む気? 幽霊出て来ちゃうかもよ? 怖くないの?」
まさかの質問である。正直幽霊なんかよりホッシーの方が謎に包まれていると思うのだが、自身はそう感じていない様だ。
「え、いや全然。むしろ何が怖いのかよく分からないんだけど……。もしかして、ホッシー幽霊怖いの?」
まさかそんな馬鹿な、ね。
幽霊は確かに奇妙な存在だが、危害を加えないと言う点で警戒対象には入らない存在だ。魔物の方がよっぽど悪意に満ちてるし、怖い。
「えええええっとぉ! 全然怖くないよ? 全くね! まさかお星様の私が幽霊が怖いだなんてある訳ないじゃないか! あはははははは!」
顔なんてないので読み取れはしないが、その台詞から察するによっぽど怖いと見える。しかも変に強がるタイプ。なるほど、出会って二日、それなりにホッシーの事が読めて来たかもしれない。
「ほーら、二階も散策するよ。えーっと」
ギシギシと木の悲鳴の様な足音をしならせ、階段を登る。一瞬だけ奥の方から白い影の様な何かが横切ったが、細かい事は気にしない。害虫じゃないだけマシなのだ。
「ねねねねねえええエーフィー! 今何か居たよね!? 居たよね!? 明らかに先客が居たよね!? ねえええやばくないやばそうやばいよね!? 本当にここで良いのかい!?」
ホッシーの大きな声が家内に響く。反響音がこの家の広さを証明する様に、それ以外の音は聞こえない。
「んーいいんじゃない? 何か困る事でもあるの? もしかしたら絶世の美女かもしれないし、歌も上手いかもしれないよ?」
ホッシービビリ過ぎだ、怖いなら怖いって言えばいいのにさ。
まぁ、怖いって言ってもこの家以外選択肢はないんだけどね。
瞬間、奥の部屋の扉がゆっくりと開き始めた。床からこちらに向かって何かがコロコロと転がって来ている。
目を凝らすと、精巧に作られた人形の頭が、斜面でもないのに足元の爪先にコツンと当たる。あからさまに幽霊の仕業だろう。
「ふーん、本当にいるっぽいねえ。あ、この人形ガラス細工が施されてるのね。綺麗……。よし、換金するか!」
何はともあれくれると言うのなら回収する。生きる術である。
「えーーー!!! ちょちょちょエーフィー! 何を言ってるんだい君は、今のは明らかに敵意剥き出しのやり取りだったじゃないか! 手厚く歓迎ではないのだよ!」
「え、でも高そうだし取っておくに越したことはないでしょ? もし本当に幽霊なら必要無いじゃん」
「待てったらエーフィー。もしかしてそのお人形さんは幽霊にとって思い出深い代物かもしれないんだよ? もし勝手にお金に変えたとしたら呪いを受けてしまうかもしれないよ? 怨念怖いよ?」
どんだけビビってるのだホッシー。
しかしこんな優良物件他には無いのだ。我慢してもらわなければならないぞ。
「は! 大事な物をこんな風に扱うなんてたかが知れてるってもんよ! 絶対換金するんだから! 邪魔しないでよ!」
「く〜〜……エーフィーの分からず屋! 危ないったら危ないって! ちゃんと返そうよってポケットに入れるなよーーー!」
しばらくそこでホッシーとちゃちな口喧嘩をしていると、ふと小さな声が部屋の方から聞こえて来た。
「––––て」
その声を聞いた瞬間、ホッシーはエーフィーの服の中に潜り込み、ブルブルと体を震わせている。
「ん、やっぱり怖いだけなんじゃないホッシー。はっきり言いなさいよそう言うのは。気付いてたけどさ」
「気付いてたの!? なんて意地悪な……」
とりあえず、声の聞こえた部屋に入ってみるとするか。何か面白いのがあればいいけど。
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