第13話 星と初めての社会活動

「はぁ……何だか劣等感……とにかく家を探さないとなぁ。出来るだけ学校の周りで探そう、家賃安い所あると良いけど」 


 私が住んでるのは都市“エーレ”を中心としたベッドタウン、その名もリーぺ。

 周りは住宅ばかりの田舎であるが、街の住みやすさとしてはそれなりの評判を得ている。特に治安に関しては魔物も出る事なく、子供達や学生達も安心して外出できる程だ。


 にしても、100万デルは相当な大金であるが、日々借金を返していくとなれば直ぐに尽きるであろう。その間に家を探し、仕事を探せという事なのだ。


「一旦お店まで行こう。安い所を紹介して貰うしか無いね」


 外は明るく燦々としているのに、内側では雷雨が巻き起こっている。それでも箒は真っ直ぐ飛び、直線から微動だにしない。変わったのは自分だけ、世の中は何の変化も起こってないのだ。


 学校の近くの学生街。その端にポツンと佇む錆びた看板がある。賃貸業を営んでいるハイツというお店だ。

 この通りは何回も行き来している為、入ったことはなかったが、店の名前と場所は覚えていた。仲介業者である。


「う〜、こういう所入るの初めてなんだよな〜ドキドキする〜」


 もしかして、初めての社会活動なのでは。

 小難しい話しをされるのは勘弁だ。これ以上考え事を増やしたくないのだ。


「ホッシー、貴方も話しを聞いていてよ? 疑問に思ったら後で報告する事!」


 唯一の味方はホッシーだけだ。でも、一人よりかは全然マシ。


「オッケー! ホッシー了解した! 聞くだけ聞いておくよ」


 元気の良い返事が返ってくる。

 記憶は無いが常識は持っているらしいので、割とあてにしているのだ。

 しかも私が付けたチャーミングな名前も気に入ってる様だ。真実は知らんけど。


 心強い仲間と共に、恐る恐るドアを開ける。

 扉の向こうは簡素な受付台と、散乱と管理もされてない資料が散らばっている。もしかして入る建物を間違えただろうか。そう思わせる程度には小ざっぱりとした印象だ。


「ごめんくださーい! ……留守かな?」


 奥の方からにゃーんと声だけがこだましている。猫を飼っているみたいだ。動物はあまり触れ合った事がないのでどうすればいいか分からない。


 すると、奥の方から白髪頭を抱えた老人がのっそりと顔を見せた。


「いらっしゃい、家を探してるのかな?」


 にこにこした顔でこちらに歩み寄る。

 机の資料を手際よく片付け、別の資料をこちらに見せて来た。カタログの様な代物だ。


「えーっと、はい、どこかに安い所は無いかなーって思ってですね。あまりお金は掛けたくなくて……」


 周りくどく説明するよりも、ストレートに伝えた方が手っ取り早い。何しろ初めてのことなのだ。


「安い所ね、相場はどれくらいで考えているんだい?」


 相場、相場かぁ。基準は幾らなのだろう。


「あ、えっと、すみませんそれも分かりません……。ただ、安ければ安い所が良いなーって思ってます」


「ふーむなるほどのー。とすれば……」


 老人はパラパラと資料を素早く捲り始めた。どうやら宛てはある様だ。


「これかな? 適度に安くて適度に住める、ただ訳ありだがね」


「訳あり? 何かあるんですか?」


 老人が指を指したのは一つの一軒家。普通なら家賃は高く、今の自分にはとても住める様な状況ではないのだが、何とそこに書かれてある数字は。


「え!? お家賃たったの1万デル⁉︎ 嘘、やっすーい!」


 ギリギリ子供のお小遣いで住める範囲と言っていい。だが肝心の訳ありとは如何様な物なのか。


「ああ、安いだろう? ただここは幽霊屋敷なんだ。それでもいいのかい?」


 幽霊屋敷? つまりお化けが出るってこと? え、それだけなの?

 昔からお化けやら怪奇現象とやらで怖がった試しはない。というより何をビビってるのだろう、何か害がある訳でもないのにさ。こちとら喋る星携えてんだぜ?


「はい、問題無いです。できればこれで決めたい所なのですが……一度見学に行ってもいいですか?」


 老人は窪んだ目をパチパチとさせている。即断即結に驚いてるみたいだ。


「本当に良いのかい? 度胸のある子だねえ。それなら地図を渡すから勝手に見学してきてご覧なさい。一通り終わったらまた此処まで戻って来てね」

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