第11話 金属くすぐってる場合じゃねえ!
今日も昨日と同じ、シンプルなトースト、ベーコン、卵、そして牛乳。まさに朝ご飯というメニューである。
いつもと違う事と言えば、シーナが心配そうな慈愛に満ちた目でこちらを包み込んでいる事である。何も言い返せないのが非常に赤面ものだ。頭はおかしくなってないんだよ?
「ねえエーフィー、そう言えばエーデル院長の用事は結局何だったの?」
ああ、そういえば言ってなかったな。正直あまりいい話しでは無いし、さらに心配を掛けたく無いので言いたくはない。
「んー、まだ整理が付かないから話せないなぁ。とりあえず今日また行くからさ、まとまったらお話しするね」
「そう……何か大変なことなのかな? 困ったら私になんでも相談するんだよ!」
ドンっと胸を叩き、いつでも来いと言わんばかりの表情をしている。所謂、自信なのだろう。
まぁ、3000マデルの借金を背負ったと伝えたらどんな反応をするのか気になる。いくらシーナでも阿鼻叫喚どころの話じゃ無くなるだろう。けど、一緒に考えてはくれるはずだ。
彼女は私の事を溺愛しすぎなのだ。たまに目線が友達じゃない事を除けば、こんな頼もしい人はいない。
「うん、お昼前には家を出るけど、一緒に行く?」
「ああ、ごめんなさい。ちょっと家の手伝いをしなくちゃいけなくて、すぐに帰らないといけないの」
シーナ・ブルグ。彼女の実家は昔からある、由緒正しい魔法使いの家だ。
我がマグ家にも劣るとも勝らないぐらいの魔法使いを輩出している。単純に実績が少ないだけで、腕は相当。
もちろん私なんかと違ってランクはA。生まれ持った出来が違うと言う訳だ。
悔しくなんかないもん。
「分かった。朝ご飯作ってくれてありがとね。ていうかわざわざその為に来てくれたの? 悪いね」
「うん……昨日何だかエーフィー元気無かったから。ついつい心配しちゃってさ。いいんだよ私が勝手にしている事なんだから。気にしないで」
ちょっと元気が無いからってそこまで心配してくれるなんて、自分は素敵な親友に恵まれたものである。
いつか、何かしらで恩返しが出来たらいいな。
「あ、もうこんな時間じゃないの! それじゃあねエーフィー。また今度遊びに来るね」
「うん、シーナも気をつけて」
扉がガチャンと閉まる。少し名残惜しいが、今日はやらなくてはいけない事が沢山あるのだ。順番に一個ずつ片付けよう。
えっとまずは何か金属で、握りやすくて硬い棒ないかな? できれば振り下ろせそうなのがいい。あ! 斧が地下にあったっけ? でもあれは重すぎて持てないなぁ。
「行った?」
どこからともなく声が聞こえる。
間違いない、破壊対象者の星金属ことホッシーの声である。
「うん、行ったよ……ねぇ、出てきなさいよ、行ったから」
「うひいいいめちゃくちゃ怒ってるねエーフィー!? 違うんだ、違うんだよ! これには海よりも深い事情があってだねってうわああああ金属バットなんか床に置いてったら! 淑女がそんなもの持ったら行けないじゃないか!? 良いかい、冷静になるんだ。あれは仕方のない事だったんだよ!」
なんとさっきから言い訳がましい事を、とにかく隠れてないで出てきなさい!
「まぁまぁホッシー、とりあえず出てきたら? 悪い様にはしないからさ」
「ちょそれ絶対悪い様にする人のセリフだぞってうわあああああ見つかったあああああ!」
「沈黙を貫いたお前には罰を与える!!!」
その後、しばらく金属をくすぐるエーフィー。
だが彼女は気付くのだった。こんな事している時間は無いと。
「はひーはひー、くぅぅぅぅ……星の弱い所をこんなに熟知してるなんて……悪魔だよ君は」
「金属なんてくすぐってる場合じゃねえ、早く準備しないと!」
急いでバッグやら何やらを準備する。
昨日地下を漁って作った遺産リスト、これも忘れてはいけない。
「あ、そういえばさホッシー。貴方が見えてる色ってさ、人の周りに浮いてるオーラの事? 混ざらない、独立した色っていうかさ」
シーナの周りには黄色と緑が合わさった様な、だが交わる事の無いオーラが漂っていたのだ。色の意味は分かりかねるが、あの様子だと決して悪い意味では無いだろう。
「え!? 何だって……君、見える様になったのかい?」
「あ、うん。こううっすらとね」
「そうなのか、うーんなるほどね。でもどうしてだろう」
「考えるのは後よ後。ねえ、これって消す方法無いの? 意味も分からないし、なんか目も痛いしさ」
正直、何だか怖い。
「ああ、それならさ“ゲフュール”って唱えてごらん。それで消えるよ」
ゲフュール、聞いた事の無い詠唱だ。
全てを網羅している訳では無いが、普段しない発音である。
「“ゲフュール” これでいいの?」
「それで良いよ。とにかく外に出て確認しなくちゃね。私も一緒に行って確認していいかな?」
外か、バッグの中に押し込めば問題にはならないだろう。
「うん、でも勝手に出てきたらダメだからね?」
分かったよ! と言いながら勝手にバッグに潜り込むホッシー。
本当に大丈夫だろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます