第10話 星と戯れてる所を親友に見られて心配されたんだけど
至福のシャワータイムが終わってしまった。まあ、シーナが待ってるだろうからのんびり出来ないし、早めに着替えなければ。
今日はシンプルなシャツにベージュの薄いセーターで決めよう。動く分シンプルな格好が一番だ。とりあえずまた地下の書庫に行って整理の続きをして、お昼は……シーナ食べるかなぁ。お買い物行かなきゃかな、確か朝ご飯分の食料しか無いはず。それが終わったらエーデル・フィルロ魔導院長の所に行って詳細な話を聞かなければ。
3億デル……くはぁ、思い出すだけで現実味が無くなりそうだ。この年齢で、しかも学生の身でそんな返しきれない様な借金を背負ってるのはこの国で自分だけだろう。
髪を乾かし、洋服に着替え終わった所、足下から引っ張られる感触に気がついた。ホッシーである。
「ねぇねぇエーフィー、済まないんだけどさ、ちょっとタオル貸してくれない? 君の使ったのでいいからさ、他に見当たら無くてね」
そう言えばこの一枚以外は洗濯中なのだった。いつもギリギリで家事は行うタイプなので、ついうっかりこういうこともある。
ホッシーにしてみれば死活問題なのだろう。錆びては大変だろうし、ってか錆びるかな?
「はいはい、良いわよそれくらい。ていうか拭いてあげるわよ」
ヒョイっと動体を持ち上げ、全身をタオルで包む。正直器官が見当たらないからどこを拭けばいいのか分からないが、とりあえず痛いって言ったらやめよう。
「う……いいねぇ、そこだよそこ……ひゃあ! どこ触ってるんだいエーフィー! そこは敏感……くわぁああ!」
「変な声出すんじゃ無いの! なるほどね……ここがこうなってるんだねぇ」
やはり普通の人間と同じだ。弱い部分は一緒という事、でも同じ女性同士なのだし、ちょっと変な所触るくらい構わないだろう。
それに、弱点を知っておきたい。
どこが目でどこが口なのかもね。
「う……! エーフィー、君はわざとやってるのだな⁉︎ なんて酷ひゃああ! また変な所触ったな⁉︎ くすぐったい、くすぐったいよ!」
なんだこの反応、加虐心が疼いてしまう。
元来のドメスティックな部分が見え隠れする。奇しくもこの星はスイッチを押してしまった様だ。誰にも止められない。
「うっふふ、覚悟なさい。いきなりお風呂に入ってきた貴方が悪いのよ?」
さあ、支配権は私に移った。思う存分泣き叫ぶがいい!
乙女の入浴タイムを邪魔した者はこうなるのだ。
「このこのこのこのこのーーーー‼︎」
「ひゃああああああ‼︎」
瞬間、扉が開く。
「もう、エーフィーったらいつまでお風呂に入って……」
「このこのこのぐはぁぁぁ! し、シーナ! いきなり入ってこないでよ!」
濃い青色のオーラがシーナを包んでいる。やはり何かおかしい、今までこんな色は視えてなかったはずだ。
「……今、誰と話してたの?」
ヤバイ所を見られてしまった。
どうしようどうしようどうしよう。あ、でも別に隠すことなんて何も無いのだし、正直に昨日の出来事を伝えれば良いだけではないか。
「ええっ! えーっと、ああそうだよ見て見て! この星喋るんだよ! 名前はホッシー! 地下の書庫で見つけたんだ。ほら、ご挨拶なさいホッシー!」
星形金属をシーナの目の前に差し出す。
きっとびっくりして腰を抜かすに違いない。喋る金属なんて長い人生、出会う事は0であろう。
「んん? おーい、ホッシー。喋りなさいよ貴方、ねえってば、聞いてるの⁉︎」
「エーフィー……」
おい喋れホッシー、このままでは私が変な人みたいじゃないか。一体どうしたというのだね、何を躊躇っているんだい。見てみなよ、シーナが可哀想な目で見てくるんだ。これを止められる者は君しかいないんだ、だから返事をしてくれホッシー。おい、喋れよ⁉︎ 頼むからさ、この沈黙は堪えるよ。
「ちょっと⁉︎ ホッシー早く喋ってよ! ねえ、ねえってば⁉︎ 昨日あんなに軽快に喋ってたじゃないの! おい早く喋れきゃあ!」
急にシーナが抱きしめてきた。苦しい、力一杯抱擁してくる。
いつの間にか、オーラは紫色に変わっていた。
「……ごめん、ごめんねえエーフィー。気付いてあげられなくてさ。一人で辛いだろうなぁとは思ってたけど、まさかこんなになるまで追い詰められていたなんて、私は親友失格だよ。ぐす……ぐすん、ごめんなさい、ごめんなさい……」
ちょっとおおおおお⁉︎ シーナがとんでもない勘違いしちゃったじゃない! どうしてくれんのさまじで! しかも精神おかしくなったと思われてる! おいホッシー早く喋れってのってかいつの間にかいなくなってるーー!? 逃げたなあいつ、絶対許さん! 絶対許さんぞおおお。
「私が、守って上げるからね! 辛い事あったら、いつでもうちに来て良いからね……‼︎」
しかも泣いてるぜ、これ終わったぜ、完全に誤解を解くのも無理だぜ、あの星絶対砕いてやるぜ。
「あ、う、うん……あはは」
「ほら、エーフィー、朝ご飯出来てるから、食べよ? 一緒にさ」
嫌だー! そんな目で見ないでよー! 駄目だ、今日は立ち直れないかも。でも刺し違えてもあの星だけはとっ捕まえて懲らしめてやるんだからってあ、あれ? シーナのオーラの色がまた変わった。黄色と緑が入り混じった色になってる。しかも段々と寝起きよりもはっきりと見える様になってきた。なんなのだろうこれ? もしかしてホッシーみたいに感情の色が見えてるのかな?
「ね、ねえシーナ、あのさ、なんかシーナの周りに色が見えるんだけど、何か魔法使ってる? 防御魔法とかさ」
「うん? いいえ、使ってないけど……は! エーフィー……うう」
やっベー、聞くタイミング間違えたー! もっと時間経ってから聞くべきだった。今の私は可哀想な心の病を抱えたみたいになってるんだった。
またもやシーナから熱い包容を受ける。先ほどより情熱的だ。
「守って……あげるからねぇ……! 私はずっと……味方だから………ねぇ」
「う、うん。ありがとうね、シーナ」
はーーどうしよこれ。
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