第2話 新学年
「はぁ、しんど。 学校辞めようかな」
「つーかやめよ」
入学当初から延々と漏らす、もはやルーチンワークと化してしまったその言葉の発声は、二年になって初の登校日だというのに止むことを知らない。
駅から出て自転車をこぐこと数分が学校までの距離。
そして学校に徐々に近づいていくたびに、その気持ちは増す一方。
頭よさげに言うなら、Y=Xの正の相関関係。
もしかしたら、2Xかもしれないが。
結果、無駄なことを極限までに破棄すれば、学校嫌いの4文字に帰着する。
——どこで選択を間違えた
自転車をこぐ足取りはどんなに重くなれども、止まることは決してないのだから大したものだろう。
といってもここでサボタージュしようものなら、学校に行くよりも面倒なことになり下手したらHR担任だけでなく、電気科教師陣からの説教も飛んでくるのだからわりに合わない。
もはや恐怖政治に淘汰された思考に呆れながらも自転車を漕ぐ。
——あ、商業
目の前からこちらに向かってくる自転車の運転手を見て思うのはそんなこと。
いや、実際には女子だという認識から入ったのだがそれは許してほしい。
電車の中や、駅で腐るほどに見た制服姿の商業高校生。
——商業なんてぜってぇいかねぇ
何をイキってそんな風に進学を考えてしまったのか、男女比で考えれば噂では女子の比率の方が高いとまでされる商業に、なんで進学しなかったのか後悔は何度もした。
それこそ、成績的にはそこそこの学校だって狙えたんだから女の子がいる学校に行けばよかったのだが、
『制服だるいからパス』
制服登校に中学で飽き飽きしてしまった俺はそんなことを思ったのだから、中学校の俺が全面的に悪い。
後は英語の成績が悪かったこととか。
学校の傍を流れる裾花川の堤防。
駅から美容学校のそばを抜けて出たその堤防道路を自転車で流すのも一年ほどになれば体内時計が学校までの到着時間を教えてくれる。
そして一つの大きな目印。
前方に大きく見える鉄筋コンクリートローゼ橋が死刑宣告のように近づいてくれば察してしまう。
——来たくなかったぜ、わが校
「おはようございます」
「おはよう」
校門に立つ本日の当番の教員に頭を下げ自転車置き場へと自転車を走らせる。
工業科ごとに別れ、更に学年ごとに分けられた自転車置き場も最初はわからなかったが、何となくだがわかりだした。
「あ、もう二年か」
慣れた感じに自転車を止め、鍵を閉めたころあいで隣の自転車を見れば自分の自転車とは違ったステッカーの色。
卒業学年の色を次年の入学制が引き継ぐために、ダブりなんていうことはないので俺の間違いは明白だ。
何となく頭のなかで進級したことは理解していても、クラス替えもないためにイベント性が薄く忘れていた。
駐輪場の上の方に掛けられた、場所わけのプレートを頼りに自転車を押していけばよく知って自転車が何台も止められている。
「あいつ、塗装荒」
自転車のフレームを真っ赤に染め上げたのを見つけたが所々が酷い。
これは後でネタにするしかないな。
頭の中で、どう煽ってやろうか考えを巡らせ俺はロッカーへを向かった。
「さてと」
目の前にある一枚の扉。
それをみて意気込んで見せるが、実際のところこれといった勇気は必要ない。
クラス替えもないし、クラスの案内だって毎年恒例の場所で先輩方の跡を継ぐだけなので一切ない。
じゃあなぜ意気込むか。
それは、たった一言を言うためだ。
中から聞こえる、休み明けの馬鹿笑いに内心で安心しながら扉を思いっきり引く。
おそらく、いかつい生徒指導がいれば即連行案件のその行動に教室の中のやつらの視線が集まった中、ただ一人を見る。
朝飯を遅れたのか、早弁なのか、それともたんぱく質なのか。
がっちりした体形で朝からおにぎりを頬張るそいつへ。
「たくや!! ちゃんと脱脂してかラッカー吹けよ!」
「うるせ!! バフ付けはちゃんとやったんだよ!!」
赤チャリのそいつは嘆くように言うが甘い。
おそらく、バフ付け。
塗装の全段階での作業で、今回の場合は既存の塗装をはがす行為。それに満足したのかもしれないが、しっかりとアルコールなどで吹かないから汚れがついていてよく色が乗らなかったのだ。
ちなみにこいつは、EPhoneも鏡面にするとか言って変な感じにした前科持ちなのだが。
せっかく煽ったのだからついでに一言。
「「課題見してくれ!!」」
悲しいことに重なり合った声。
間違いなく一方は俺だ。
そうなれば答えは1つ。
「「お前もか!!」」
目論みが外れた俺たちは、次に入ってきたクラスのやつに頼み込んだのは言うまでもない。
年下幼馴染が、人生の先輩になって帰ってきた。 紫煙 @sienn
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