年下幼馴染が、人生の先輩になって帰ってきた。
紫煙
第1話 電気科 二年 安城遼谷
「おいβ! 240に敵いるぞ!」
「うっせ! 扉の先に敵いるのがわかんねぇかあほ!」
「あほってなんだ! あほって!」
「ちょ、200の小屋にも敵いるぞ!?」
「はっ!? つーか小屋の上にもいるくね?」
響き渡る銃声の音。そして時折聞こえる特殊な音。
ついでに耳元で聞こえてくる、頭に響くような男の声。
おそらく特殊効果かなんなのか、それが音でわかるあたり俺は生粋の戦士なのだろう。
流石に負けが濃厚な戦局。俺たちがいるのは住宅街から外れた一軒家。
残りは数チームとなった中で漁夫の利を狙い身を潜めたが結果は穴の中のむじな状態。
ようはみんな同じようなことくを考え、みんなが同じような行動をしたのだ。
「流石プロ帯」
「ちょ、β君? 何諦めてん?」
「うっせぇ、阿保ウイング」
「は!? キモ!」
「あの、二人とも? あのどうするの?」
さっきまでの煩い男の声とは違った、少し自信なさげな女性の声。
ごっついおっさんの戦士アバターからそんな声が聞こえてくるのは不思議には思うが、それはゲームだからだ。
いってしまえば俺と、もう一人の男に関しては移動速度重視の女性アバターなのだから、彼女の方こそ気味悪いだろう。
『出てこい! β 一騎打ち』
「しんど」
全チャ機能で送られてきたメッセには、間違いなく俺を指名する文言。
「お、呼ばれてるぞβ」
「きもウイング黙れ」
「うざ」
「えっと、βさん行くの?」
「え...あぁ。 ちょっとSR貸してくれ」
「えぐ」
ウイングから非難の言葉を貰うが、それと同時に女性プレイヤー『sivre《シブレ》』さんがドロップさせたスナイパーライフルを装備する。
『β』、それはこのバトルロワイヤルオンラインゲーム『Army Of Vie Arms』通称アオバのβテスト時に『相手の攻撃で一番飛ぶ』というなんとも不名誉な条件を全ユーザー中で満たしてしまった為に与えられたユニークネーム、『βof SKY』に由来するものだ。
何よりこれのタチの悪かったところは、電話番号とアカウントが連携しているためにサブ垢を作るということもできず、β時の武器やステータスが引き継げるという配慮によるものだ。
結局、学校での友達作りと暇つぶしに初めていたのもあり、そこそこにやり込めば気づけばトッププレイヤーにかなり近づいていたのだ。
「あいつ馬鹿だろ。 半身できてねぇし」
おそらく俺に位置バレはないとおもい油断したのか、がっつりと身体が見えるそのプレイヤーの頭にサイトを合わせる。
実際の銃声なんて言うものを聞いたことはないが、変わりに何百、何千と聞いた電子音が俺の鼓膜を揺らした。
どうやらそいつはそのチームの最後の一人だったらしく、生存部隊が一つ消えた。
残り3パーティ、位置バレはおそらくしているがそこまで突っ込んでくるほど馬鹿ではないだろう。
「さて、漁夫るか」
「OK」
「了解です」
呟きにも近い俺の言葉に二人は返してくれたので、グレネードを握る。
「あ、そういえば遼谷。 明後日の合コン行く?」
「合コン!?」
「そーそー」
突然個人回線で流れてきた声に思わず声が裏返るのがわかる。
でも、しょうがない。なぜなら工業病なのだから。
「つ、翼。 それマジで?」
「うん、カズたちが他校とのセッティングに成功したんだって」
「マジか!?」
長い期間、それこそ1年近く工業高校に入学してから同年代の女子と密接にかかわることはなかった。
それは共学という名の実質男子校という面に苦しめられたからに他ならない。
そして、それは俺だけではなくみんながそうなのだ。
だからこそ、女子との出会いは課題のレポートよりも重い!
「で、遼谷行く?」
「も、もちろん!」
「よし! 頑張ろうな!」
「愛してるぞ! 翼!」
「やめい」
さっきまでの舐めた発言もすべてがもはや愛おしい。
「あの、これグレおってません?」
「え?」
「ま?」
ウキウキ気分でテンション爆上がりの俺と翼のもとに響いた、チームチャットのそんな声。
もちろん、もう一人の女性プレイヤーであるシブレさんのモノなのだが、
「あ、」
何となく察した。
「ばか」
そして翼も。
「え?」
シブレさんはわかっていないようだが、この小屋は外から投げ物は入らない。
それはシステム上のバグだかなんたらなのだが、ついでに俺の装備していた『グレネード強』がなくなっている。
『グレネード強』
アオバにおいて最も威力の高く、投擲距離の短いそれは置き土産や、扉を閉めてガードなどのトリッキープレーに使われる投擲武器だ。
その、ピンキーな特性上爆発までの所要時間が長いのだが、何となくわかる。
とりあえず謝ろう。
シブレさんに申し訳ないと言おうとして時、大きな音と爆発エフェクトと共に俺たちはロビーから吹き飛ばされた。
自チームキルという最悪のペナルティーと共に、合コンをゲットした瞬間であった。
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